安藤裕子、混沌とした日々の中でたどり着いた“夢を見るためのポップス”

安藤裕子、“夢を見るためのポップス”

『進撃の巨人』の影響から生まれた「Goodbye Halo」と「森の子ら」

安藤裕子(写真=斎藤大嗣)

――6曲目の「森の子ら」はとても重要な曲だと感じました。明るく穏やかな今回のアルバムの中で考えさせれるところもあるし、コロナ禍の現在の状況も反映されているとも感じました。

安藤:実は「衝撃」以外にも「Goodbye Halo」と「森の子ら」は『進撃の巨人』を読んで、アニメを見て、その中で作った3曲なんです。なかでも「森の子ら」はポップスが並ぶ作品の中で異質で強い感情を持っている曲で。私が物語に触れて、本当に悲しくて号泣しながら作ったのでその感情の部分を担っている曲でもあります。『進撃の巨人』では戦争が描かれていますけど、戦争が起きた途端に殺人が正義に変わってしまうという切り替えがある。人々を駆逐することが賛美に値するわけですよね。だけど、その殺人の裏側には殺された家族であり、恋人であり、思いがあるということ。本当にそれが正義だったかという疑問は残り続ける。そういった疑問は漫画やアニメの中だけにとどまらず私生活でもやはりあるわけで。負のループというか、それこそ森の中を彷徨い続けるような正解が見えないこと。大切な人を失った側は納得もいかないし悔しい。やったほうは「間違いだったんだよ、ごめんね」と簡単に言うことができる。それは決して間違いでは済まないと言いたい気持ちもこの曲には込められています。

――強く伝わってくるものがあります。

安藤:一番人間の業に近しい思いを「森の子ら」は含んでいるのかもしれません。

――アルバムの中ではインタールード的な「teatime」の後に「Goodbye Halo」「衝撃」が並んでいるので明らかにこの2曲はつながっているように感じましたが、「森の子ら」は別のハイライトという位置づけですね。1曲だけ前半にあり、サウンドとしてはかわいらしく音的にも他の曲と馴染んでいます。

安藤:「Goodbye Halo」と「衝撃」は完全に『進撃の巨人』に向けて描いたものなのでサウンド感も違いますし、区切って収録することで別世界という形にしました。「森の子ら」は作品を見て作ったけれど、感情はアニメに寄せたものではなかったんですね。もっと自分たちが現存する、本当の人間の世界を投影したものだったから。だからこの曲は2曲と仲間であるようで仲間ではないんですね。

――「Goodbye Halo」「衝撃」は、『進撃の巨人』の世界観や物語から生まれた部分がとても大きかったということですね。

『衝撃』Music Video【TVアニメ「進撃の巨人」The Final Season エンディングテーマ曲】

安藤:まさに対の曲です。「衝撃」はいろいろな人がその瞬間にいろいろな思いを馳せたと思うのですが、アルバムバージョンでは、ミカサがエレンを返してほしいと思う様子を最後に〈一秒前に戻して 彼が消え去る前に〉という歌詞にして追加しています。私が担当したアニメの時期には内容的にフィットしなかったので歌っていなかったのですが、このタイミングでは漫画も終わったこともあり、歌わせていただきました。Shigekuniくんが工夫して最後にいろいろサウンドもリアレンジしてくれました。

 「Goodbye Halo」は「衝撃」より後の世界を描いている曲です。エレンの苦悩や幼なじみのアルミン、ミカサの3人の関係性、〈どこか遠くへ行かないか?〉というフレーズはエレンの本心、〈「始めに彼が言ったの 僕らは同じだけ好きなのだからと」〉という女性的なセリフはミカサの言葉、この曲を全て俯瞰して語っているのがアルミンというイメージで作りました。ある種、物語の最後の部分かなと自分では考えています。

――ポエトリーリーディングというか、畳み掛けていく語りの感じもものすごくはまっています。

安藤:最初はなかったのですが、Shigekuniくんが長い間奏をつけてきて「ここにちょっと語りを入れてほしい」と言ってくれて。そのおかげで、より濃く、物語の本当の景色が見えた気がします。サウンド的にもそれこそ混沌としたぐるぐるとした思い、終わるしかないというところがうまく描けたのではないかと。最後のサビに生ドラムが乗る瞬間すごくゾワっとして感情が触れた瞬間があって。それまではどこかゲームの世界観、それこそアニメからできたものだから正解なんですけど、作り物の世界のようなところから一気にドラムが入ることで生々しい人間の感情に移り変わる瞬間を感じられて。そこはすごく好きでミックスの時も「ドラムをとにかく、ドラムを……」と、ずっと言っていました(笑)。

――『進撃の巨人』がアルバムの重要な要素だということは間違いないですね。作品から得たものをご自身に引きつけて、また違う形で表現されている。

安藤:実際の『進撃の巨人』の曲は1曲だけなのに、実はあと2曲も入っているという(笑)。でもそれくらい自分の中では大きな物語だったんです。自分が作品に入り込んだからには1曲では描き切れなかったものを出し切りたかった。そもそもそこが起点にあって作り始めた作品だったのに、結果全然合わせられなかったというところもありますけど(笑)。実際の答えが裏返しな感じもまさに『Kongtong Recordings』ですよね。

――「衝撃」を通して出会った新しいリスナーも多くいるかと思います。そういったリスナーがこれから本作や安藤さんのこれまでの作品にも向かうかと思うとすごくワクワクしますね。

安藤:そうですね。聴いていただけたら嬉しいです。全然作風も違うので捉え方は人それぞれだと思います。

――『進撃』もある意味、強烈な死生観を描いている作品です。過去の安藤さんの作品をたどっていくとハマるのではないかという期待もあります。

安藤:たしかに根っこは得意なところですね(笑)。

安藤裕子(写真=斎藤大嗣)

――最後にお聞きしたいのですが、今の状況の中で『Kongtong Recordings』のような作品を作られたというのは、安藤さんの中にも強い意志、作りきるんだという気持ちがあったからなのではないかと感じました。この状況下だからこそどうしても作っておきたかった作品という思いもあるのでしょうか。

安藤:そうですね。それこそ音楽がもうできないと思った2016年からやっぱり作ることしかできないと立ち上がって『ITALAN』が生まれ、生命力とともに音楽を形にしていったのが『Barometz』。エンジンがかかって「さぁここからできるか」と思った時にコロナ禍に入ってしまったのは非常に痛かったです。やっとあふれるものがあるのに止まらなければならない。私のような人間はものを作ったり舞台に立つことで、ようやく存在意義が認められる。それを実感して世の中にものを作ることを表明していきたいと思った途端に閉ざされた世の中になってしまって。実生活も含め何もかも止まってしまう中で、ものを作る作業が非常に救いであり楽しかった。それが一番のコミュニケーションになっていたから、私にとっての救いだったんです。この時代に作らなければならないという使命感より、私の命をつなぐ作業であったように感じます。

ーー聞き手にとっても、救いの表現としてずっしり残る。とても力のある作品だと感じました。

安藤:けだし名盤、としていただければ嬉しいです。

――これからは過去の自分の姿ではないものを見せていきたいというお話もありましたが、どのような新しいご自身の姿を表現していきますか。

安藤:自分が自分として、自己否定に陥ることなく立つということかなと思っていて。こういう仕事をしていると自分を疑ってしまう瞬間がよくあるんです。みなさんに自分の曲を愛でていただきたいという思いと、その曲に嘘があってはいけないということのバランスではあるのですが。自分が心の底から喜んで作ったり歌ったりできる、自信を持って立てるように努力をしていきたいということが一番ですね。

安藤裕子『Kongtong Recordings』
安藤裕子『Kongtong Recordings』

■リリース情報
『Kongtong Recordings』
2021年11月17日(水)リリース
PCCA.6075/3,300円(税込)
初回限定仕様:安藤裕子直筆シリアルナンバー入りブックレット
購入はこちら
ストリーミング/デジタルはこちら

【収録曲】
01.All the little things
02.ReadyReady
テレビ東京系ドラマ「うきわ ―友達以上、不倫未満―」 オープニングテーマ
03.UtU
04.Babyface
05.恋を守って
06.森の子ら
07.少女小咄 
08.Toiki
09.僕を打つ雨
10.teatime
11.Goodbye Halo
12.衝撃(album ver.)
TVアニメ『進撃の巨人』The Final Seasonエンディングテーマ

【特典】
各法人:A4クリアファイル
Amazon:メガジャケ

■ライブ情報
『安藤裕子 LIVE 2022 Kongtong Recordings』
2022年1月16日(日)大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
OPEN16:00/START17:00
2022年1月22日(土)東京・中野サンプラザホール
OPEN17:00/START18:00

【チケット料金】
前売指定席:¥8,500(税込・全席指定)
販売制限:3歳以上はチケットが必要/入場に関する年齢制限なし
枚数制限:全公演共通お一人様1公演日毎に2枚までの販売
注意事項:客席を含む会場内の映像・写真が公開される場合あり

アルバム封入先行:2021年11月16日(火)12:00~11月24日(水)23:59
オフィシャルサイト1次先行:2021年11月29日(月)18:00 ~ 12月6日(月)23:59
オフィシャルサイト2次先行:2021年12月11日(土)18:00 ~ 12月19日(日)23:59

【チケット一般発売】
2021年12月25日(土)

【お問い合わせ】
東京:DISK GAREGE https://www.diskgarage.com
大阪:キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日・土曜11:00~16:00)

安藤裕子オフィシャルサイト
https://www.ando-yuko.com
安藤裕子オフィシャルTwitter
https://twitter.com/yukoando_ucad
安藤裕子オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/yuko_ando/
安藤裕子オフィシャルオフィシャルYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCuJOS7FFIeXCFHEKRpWXubw

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