『Kan Sano Talks About Pop Music』第4回
Kan Sano、山下達郎が奏でるハーモニーの秘密を実演解説 『Kan Sano Talks About Pop Music』第4回(前編)
山下達郎が取り入れた複雑なハーモニー
普通ハーモニーというのは3音でできていて、例えば「C」というコードだったら「ド・ミ・ソ」で1つの和音になるんですけど、このコードにさらに音を加えていくものをテンションノートと言うんですね。ジャズやソウルでよく使うハーモニーなんですけど、達郎さんはそれをポップスに持ち込んだんです。当時、そういうことをポップスでやっている人はほとんどいなかったと思うんですよね。例えば、C7sus4(9)というコードだと「ド・ミ・ソ」を「ド・ファ・ソ」に変えるんですけど、そうするとメジャーコードでもマイナーコードでもない、ちょっと浮遊感のある不思議な響きになって。そこにさらにテンションノートを加えて、ハーモニーを作っていくんです。
僕が紹介したいのは、1970年代の達郎さんの「DANCER」という曲です。「Dm、G、Em、Am」というテンションノートを入れない状態のコード進行を、達郎さんは「Dm7(9)、G7sus4(9)、Em7、Am7(9)」という風に弾いていて。どんどんテンションノートを増やしていくことで、もともとシンプルだったハーモニーをちょっと複雑にしています。こういうハーモナイズの仕方は僕もいつもやっていることで、ハーモニーは複雑だけどメロディは割と歌いやすいようにいつも心がけているんですけど。達郎さんもやっていることで、今自分がやっていることにも直接つながる、共通している部分だと思います。
ハーモニーを変化させるテンションノート
音を加えることによって、表情に奥行きが出るというか、また違った情感が出てきたりするんです。先ほどの「Dm7(9)」を例に挙げると、オクターブ下げた「9th」を弾くと半音でぶつかるところがあって、そこだけ聴くと不協和音なんですよ。でもハーモニー全体で聴くと調和しているんですね。半音でぶつかっている部分は不安定な響きなんですけど、それが全体で調和すると、奥行きが出て切ないポイントにもなるんじゃないかなと思います。
今お話しした「Dm7(9)、G7sus4(9)、Em7、Am7(9)」と同じコード進行って、僕も大好きな楽曲「RIDE ON TIME」でも使われているんですよ。実は僕の楽曲「C'est la vie feat. 七尾旅人」で同じコード進行を使っていて、そこにテンションノートをいっぱい加えていくんです。僕がなぜこういう風に弾くかというと、結局これが一番気持ちよくてしっくりくるからなんですけど、複雑でもキャッチーに聴かせたい気持ちはやっぱりあるので、メロディは歌えるようにしておいたりとか、そういう工夫はしてあります。同じことを達郎さんも「DANCER」や「RIDE ON TIME」でやっているんですね。それが、複雑な響きは洋楽みたいでも、邦楽として成立している秘訣なんだと思います。
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