砂原良徳×白根賢一が語る、高橋幸宏の凄み　すべてがデザインされたスタイリッシュなドラミング

文・取材＝美馬亜貴子、写真＝三橋優美子

幸宏さんが焦ってるところは見たことがない

ーー白根さんは幸宏さんのソロの中で特に好きな楽曲というのはありますか。

白根：好きなもの……たくさんありますけど『ニウロマンティック』が最初に買ったアルバムで、それが今回、あの曲順で聴けて……本当にあれはすごい考えられてますよね（※『ニウロマンティック』のオリジナル盤では「大いなる希望（Grand Espoir）→「Connection」という曲順だが、『GRAND ESPOIR』は砂原の判断により逆になっている）。

砂原：あれね（笑）。いろいろ聴かせようよ、っていうよりはもっと偏った選曲の方がいいんじゃないかってことで。

白根：流れがすっごく自然で。「Connection」が今までそんなにぐっと来てなかったんだけど、今回の流れで聴くとこんなにいい曲だったんだ！　って。今日はね、それだけを言いに来たんです（笑）。

砂原：ハハハ。（確かに）流れは考えました。

ーーディスク2のことについても伺いたいんですけど、これも砂原さんの選曲ですよね。

砂原：そうですね。色々企画を考えてる時に幸宏さんの外仕事が、まとまっているものがあんまりなかったんで。それをまとめて聴くのもおもしろいかなと思って。

ーー白根さんは外仕事も追っていらっしゃいました？

白根：いえ、そこまでは。まずピンク・レディーで作曲して、叩いてた（※1981年のシングル「Last Pretender」のこと）って全然知らなかった。

ーーこのディスク2の選曲がまた絶妙で。特にRAJIEの作品などは、今聴いてもカッコいいですよね。プロデューサーとしての幸宏さんの特徴は、どんなところにあると思われますか？

白根：僕はやっぱまずドラムを聴いちゃうんですけどね。ドラムがどんな曲調のものでも、いつもあんなにソリッドで。ニュー・ウェイヴでもああいう風にソリッドに聴けるのって、音の配置の妙っていうか。ドラムの音色だけじゃなくて、それこそ全体がデザインされているような。どの曲を聴いても音の立体感が楽しめますね。

砂原：いろいろパターンはあると思うんですけど、ヨーロッパのニュー・ウェイヴっぽい感じがありますね。そこが細野（晴臣）さんとはだいぶ違う感じがします。細野さんはアメリカの音楽の影響が大きいと思いますけど。あと、自分のレコーディングよりもある意味実験っぽいことをしてるんですね。ドラムの音色とかにしても。自分のソロでやるときは、ある程度確立してる状態になっているから、実験をいろんなところでやってたのかなって気がします。

ーープロデュースもクセが強い気がします。

砂原：そうですね。クセは強いですね。YMOは3人とも強いですけど（笑）。

ーー自己プロデュースに関してはどうでしょう？　幸宏さんと接していて、その上手さを感じることはありますか？

砂原：僕はソロにはあまり関わってないからな。なにかあります？

白根：うん、やっぱりお客さんがこれ聴きたいだろうなっていうのは意識していらっしゃるセットリストだなと思いますね。自分がやりたい曲というよりは。あと、客観的に自分を見てらっしゃるとは思いますね。僕は自分の演奏をするので精一杯ですけど、幸宏さんはMCひとつとっても冷静だし、ここでこういうことを言った方がいいんだろうなっていうことは、自分の中で確立されてるんじゃないかな。さすが、世界を回った人だなって。

ーー幸宏さんはいつも冷静なんですか？　

砂原：焦っているところは見たことないです。

白根：ないな。一回、ライブの一曲目で、クリック（※演奏のガイド音）が幸宏さんのところに行かなくて。一曲目始まったのに一回止めたことがあって。みんなすごく焦ったんだけど、幸宏さんは全然（笑）。「なんかいろいろあったけど、みんなラッキーだね。こんなの滅多に見れないから」って。

砂原：ハハハ。

白根：そう言った時に「ああ、すごい人だな」と。さっきも言った通り完全に客観的に見てる。幸宏さんといえば『ドラム・マガジン』の創刊号のインタビューで、ドラマーはランニング着て、汗だくになって練習してちゃダメだよ、というようなことを言ってたんですよ。そんなことをするんなら映画でも観たほうがいいし、恋愛したほうがいいよって。ドラムから音楽にいってるんじゃなくて、（ドラムも）音楽の一部でしかない、ずっと「音楽」が真ん中にあるっていうか。そのへんが多くのドラマーとは全然違う。

ーー自分が「幸宏さんのここを継ぎます！」と思っていることはないですか。

砂原：そんな偉そうなことを言える立場じゃないけど、いろんなものは与えられましたね。幸宏さんから影響を受けた要素を取ったらどうなるんだろうって思ったら、足りないものがかなりあると思うんです。リズム関係とか。幸宏さんの叩くドラムもそうだし、ドラムマシーンの打ち込みや、そのコンビネーションも全体的にデザインされてるものだから、その影響はすごく大きいですね。

白根：幸宏さんのどの部分を直に引き継ぐかということよりも、METAFIVEで一緒にやらせてもらった時に、幸宏さんの息吹を感じながら、バンドメンバーとして他のメンバーが受け継いでいるものを、同じ世代の人と共有できているっていうこと自体が自分の財産ですね。

ーーお二人が高橋幸宏という人から学んだことは何でしょうか。

白根：僕が思うのは、前はドラムスタイルだけを追ってたけど、ドラムが好きなら他のことーーファッションのこともそうだし、ジャケットとかもコンセプチュアルなものというかーー幸宏さんは「アイデンティティ」っていう言葉を昔からずっと言ってたけど、それはドラマーとかギタリスト、ベーシスト（というカテゴリー）ではなく「音楽家」であるべきってことなのかな。ドラムがうまくなりたければ曲も作ったほうがいいだろうし、歌ったほうがいい、もっと映画を見たほうがいいのかもしれないとか。そういう考え方ですね。

砂原：僕が学んだのは、クセを大事にしようってことかも。クセの強さは特徴ということだから、その特徴を大事にするということのような気がしますね。

■リリース情報

GRAND ESPOIR (CD)

4,400円

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『GRAND ESPOIR』
発売日：2021年10月27日（水）
価格：【CD】4,400円（税込）／【LP】6,050円（税込）
発売：ソニー・ミュージックダイレクト

収録予定曲：
【CD】
Blu-spec CD2: MHCL-30701～2（2枚組）
Disc 1
1. School Of Thought［音楽殺人］1980
2. Numbers From A Calculated Conversation［音楽殺人］1980
3. Connection［ニウロマンティック］1981
4. 大いなる希望 -Grand Espoir-［ニウロマンティック］1981
5. Drip Dry Eyes［ニウロマンティック］1981
6. Curtains［ニウロマンティック］1981
7. Sayonara［What, Me Worry?］1982
8. My Bright Tomorrow［薔薇色の明日］1983
9. Are You Receiving Me? (Remix)［薔薇色の明日］1983
10. And I Believe In You［Are You Receiving Me? (Single)］1983
11. Good Time［薔薇色の明日］1983
12. Stranger Things Have Happened［Wild & Moody］1984
13. Kill That Thermostat［Wild & Moody］1984
14. Walking To The Beat［Wild & Moody］1984
15. 四月の魚 -Poisson D'Avril-［四月の魚 (Single)］1985

Disc 2
1. キャトル／ラジ［キャトル (Single)］1979
2. Radio Junk／シーナ＆ロケッツ［真空パック］1979
3. Drip Dry Eyes／サンディー［Eating Pleasure］1980
4. Baby Maybe／シーナ＆ロケッツ［Baby Maybe (Single)］1980
5. ラジオと二人／ラジ［ラジオと二人 (Single)］1980
6. Last Pretender／ピンク・レディー［Last Pretender (Single)］1981
7. Maps／大村憲司［春がいっぱい］1981
8. 恋せよおとめ／SUSAN［恋せよおとめ (Single)］1981
9. I Only Come Out At Night／SUSAN［恋せよおとめ］1981
10. サマルカンド大通り／SUSAN［サマルカンド大通り（Single)］1982
11. Illusion／サンディー＆サンセッツ［Immigrants］1982
12. シャネルの５番のオン・ザ・ロック／シーナ［いつだってビューティフル］1982
13. ビックリパーティーのテーマ／細野晴臣・高橋幸宏
［音版ビックリハウスウルトラサイケ・ビックリパーティー］1982
14. ドアを開ければ……／高橋幸宏［We Wish You A Merry Christmas／V.A.］1983
15. Oh Le Beaux Japonais!（Original Karaoke Version)／S.E.T.
［Yen Box Vol.1 Bonus Disc／V.A.］1996
16. 蝶をちぎった少女／安田成美［安田成美］1984
17. 今日、恋が／高橋幸宏［死ぬのは嫌だ、恐い。戦争反対！／スネークマンショー］1981
［］…出典アルバム
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【LP】完全生産限定盤
30cm 33 1/3rpm Vinyl: MHJL-201～2（2枚組）
Side 1
1. School Of Thought
2. Numbers From A Calculated Conversation
3. Connection
4. 大いなる希望 -Grand Espoir-