アデル、「Easy On Me」での華々しいカムバックまでを振り返る 新作『30』へと続く栄光と苦悩の日々
3rdアルバム『25』以来、約6年ぶりの新曲「Easy On Me」を10月15日にリリースしたアデル。SpotifyとAmazon Musicでは1日=24時間でのストリーミング再生数の最高記録を更新し(SpotifyにおいてはBTS「Butter」の記録を抜く快挙を達成)、イギリスでも1日のストリーミング数は320万回、1週間のストリーミング数は2400万回と共に史上最高数を記録。これまでにも数々の記録を打ち立ててきたアデルらしい華々しいカムバックとなった。
「Easy On Me」は、『25』からの偉大な1stシングル「Hello」同様、共同プロデューサーとしてグレッグ・カースティンが参加。流麗なグレッグのピアノから、アデルのスモーキーで伸びやかな歌声が聴こえる直球のバラードだ。若くして世界的な成功を手に入れてしまったがゆえに、自分を取り巻く世界に気づけていなかった。そんな自分なのだから、お手柔らかにーーそんな風に傷心と許しを乞うような心情が歌われており、どこか晴れ晴れしくパワフルな歌声からは、新たな岐路に立ち、再び歩を進めていく意志が渦巻いているようにも聴こえる。ここで歌われている心境は、多くの人々に刺さる普遍的なものだ。それを証明するかのように、「Easy On Me」はリリースから少し時間が経っても次々と記録を樹立している。
「Easy On Me」が新たなアデル伝説の始まりだと思える理由のひとつに、映画監督のグザヴィエ・ドランが手掛けたMVがある。ドランは「Hello」のMVも手掛けており、「Easy On Me」のビデオには「Hello」のMVに出てきた家が登場するのだ。「Hello」はセピア色の映像の中、アデルが久々にその家を訪れ、苦しい別離における様々な情景が映し出される。一方「Easy On Me」はモノクロームの映像の中、引っ越しのための荷造りを終えたアデルが「今からそちらに向かうね」と快活な声で電話をかけ、家から去っていく。さらに家を売りに出し、ひとり車を運転して新しい場所へと向かう姿が映し出されるのだ。映像は途中カラーに変わり、最後は「カット!」の声がかかり、ドランが「絶対このシーンは使おう」と言うと、「絶対使わないで!」とアデルが笑いながら口にするというやりとりで締めくくられ、今のアデルがとてもオープンでポジティブなマインドにあることを示唆するような作品となっている。
11月19日には、4thアルバム『30』のリリースが予定されている。世界を代表するシンガーの晴れやかなカムバックを機に、いま一度アデルの足跡を振り返ってみよう。
3歳の時に父親が去り、10代でアデルを産んだ母とのふたりの家庭で育ったアデルは、父への憎しみを抱きながらも幼い頃から歌が好きで、友人とパーティーでSpice Girlsの真似をして遊ぶような少女だった。エタ・ジェイムスやエラ・フィッツジェラルドなどのR&B/ジャズシンガーたちから影響を受け、16歳から作曲とギター演奏を開始。アデルが敬愛するエイミー・ワインハウスらを輩出していることでも知られるロンドンのブリット・スクール・パフォーミング・アーツ学校で楽曲制作の基礎を学んだ。2008年にリリースしたデビューアルバム『19』がイギリスのアルバムチャートで初登場1位を獲得、全世界で500万枚以上のセールスを記録し、一躍トップアーティストへの仲間入りを果たした。
愛聴するRed Hot Chili Peppersの『カリフォルニケイション』をプロデュースしたリック・ルービンらをプロデューサーに迎えた2ndアルバム『21』は、恋人との別れがテーマだった。サウンドのインスピレーションはトム・ウェイツやアンドリュー・バード、モス・デフやカニエ・ウェストといったヒップホップ、さらにはイヴォンヌ・フェアといったR&B。辛い別れを新たなサウンドアプローチに昇華し、アーティストとしての躍進的な進化を遂げた『21』はイギリスとアメリカで半年にわたって1位を独走し、両国での女性アーティストによる史上最長1位記録を更新、世界中で大ヒットした。