エド・シーラン、鮮烈な復帰以降シーンに残す爪痕 BTSやONE OK ROCKとのコラボ&新曲から紐解く『=』への期待
だが、そんなダンスミュージック色の強い楽曲でありながらも、“エド・シーランの楽曲のコア”とも言える「一人でも演奏できる」という部分は守り続けているのが彼らしい。エドのキャリアにおけるハイライトといえば、2015年にロンドンのウェンブリー・スタジアムで3日間・計24万人動員という規模をたった一人で完遂した伝説のライブだが、世界的ブレイクを経た今も、彼は一人で機材とアコースティックギターを駆使して楽曲を演奏するというパフォーマンスをよく披露しており、今回もすでに「Bad Habits」を一人で演奏する姿を見せている。前述した深く沈むバスドラムも、アコースティックギターを叩く音をループさせて再現するというこだわりぶりだ。デビュー以前はホームレス生活をしながらギター1本でライブをしていた彼だが、今でもそのルーツを非常に大事にしていることがよく分かる。
一方で、先日リリースされたばかりの「Shivers」は、「Shape of You」を彷彿とさせる単音のシンセの音色が特徴的ではありながらも、リズムに併せて力強くアコースティックギターでコードを鳴らしながら疾走していくアレンジが印象的。彼のシンガーソングライターとしてのスタイルを好むファンであれば、むしろこちらの方に強く魅力を感じるかもしれない。ネガティブなテーマを取り扱った「Bad Habits」に対して、こちらは意中の相手に対する想いを限界を超えるほどに燃え上がらせる情熱的なリリックとなっており、〈きみの目にキスしたい/その笑顔を飲んでしまいたい〉(和訳)というフレーズまで出てくるほどである。MVもそれに呼応するかのように過去最高にブッ飛んだワイルドな内容となっているため、ぜひご覧いただきたい。特に意中の相手に感じた強烈な情熱を衝撃的なビジュアルで表現するシーンや、相手からの連絡がなくて「文字通り」死にかけているエドの姿は見ものである。
まだ全貌が明らかになっているわけではない『=』だが、実は本作には明確なコンセプトが定められており、収録された楽曲はいずれも自分の人生を振り返り、今までに起きた様々な出来事を描いた内容となっている(※3)。エドは前作リリース後の2019年1月に結婚し、翌年の9月には第一子の出産を迎え、父親になった。「Bad Habits」は自ら父親としての在り方を最優先したいという想いから、過去の悪癖であるパーティ三昧や飲酒といった習慣を断とうとした出来事を踏まえて制作された楽曲である(※4)。そして恐らく「Shivers」は現在の妻との出会いや交際する日々を描いた楽曲ということなのだろう。
先行リリースの楽曲において最も美しく、祈りに満ちた「Visiting Hours」は、2021年3月1日に68歳で急逝した、オーストラリアの音楽業界の重鎮であるマイケル・グディンスキーに捧げられた鎮魂曲である。〈天国に面会時間があれば/顔を出して知らせられるのに/彼女が育っていることを/会ってほしかったな/彼女が僕から教わることはきっと、僕があなたから得たことばかり〉(和訳)というフレーズに、前作以降に彼が経験してきた人生の節目を感じ取ることができる。
休暇を経て生み出された『=』は、おそらくこれまでのエド・シーランの作品において、最も強く自己と向き合った作品になることだろう。そして、そんなパーソナルな楽曲の数々が、きっと再び世界中を魅了するのだ。その準備はすでにでき上がっている。
※1:https://www.billboard.com/charts/hot-100/2021-07-10
※2:https://www.barks.jp/news/?id=1000208122
※3:https://realsound.jp/2021/08/post-841209.html
※4:https://youtu.be/qJh-1f9P8GY
■アルバム情報
ニュー・アルバム『=(イコールズ)』
2021年10月29日発売
国内盤CD ¥2,200(税込)
予約 / ダウンロード / ストリーミングはこちら:https://edsheeranjp.lnk.to/EqualsM2
収録曲:
1. Tides / タイズ
2. Shivers / シヴァーズ
3. First Times / ファースト・タイムズ
4. Bad Habits / バッド・ハビッツ
5. Overpass Graffiti / オーヴァーパス・グラフィティ
6. The Joker And The Queen / ザ・ジョーカー・アンド・ザ・クイーン
7. Leave Your Life / リーヴ・ユア・ライフ
8. Collide / コライド
9. 2 Step / 2ステップ
10. Stop The Rain / ストップ・ザ・レイン
11. Love In Slow Motion / ラヴ・イン・スロウ・モーション
12. Visiting Hours / ヴィジティング・アワーズ
13. Sandman / サンドマン
14. Be Right Now / ビー・ライト・ナウ