tricot、新たな出会いと娯楽を届けた『爆祭』レポ ポルカドットスティングレイ、シナリオアートと繰り広げた熱狂の一夜
ホストバンドであるtricotは中嶋の弾き語りによる「おまえ」でスタート。コロナ禍で自分と対峙することが増えた昨今、鬱陶しくても寂しくても、「またおまえ(自分)かよ」と思っても、それを歌うしかないというこの曲は刺さる。キダのフィードバックと吉田雄介(Dr)のハードヒットで圧を高め、立て続けに真っ赤なライティングに包まれる初期ナンバー「スーパーサマー」へ。さらにキダの特徴的なリフ、ドラミングもリフ的な変拍子の「爆裂パニエさん」。中嶋は仁王立ちで腹の底から歌っている。4人全員が音で殴り合ったり、駆け引きしたりする変化が目まぐるしいバンドは、早々いない。
自主企画ならではの各バンドとの関わりを話す中嶋は、いつになく饒舌。「袖で自分たちが呼んだ好きなバンドを観る娯楽」と『爆祭』の定義を話し、「コロナになってからなかなかできない貴重な体験に心がきゅーっとなる一日」とも。ピンチを救ってくれたシナリオアートには「ピンチヒッターはヒット打ってくれないといけないんで、ほんとに今日、空いてて良かった」と、旧友ならではのリスペクト込みでプレッシャーも含んだ物言いに笑ってしまった。
散々笑ったあとはしっとりした「サマーナイトタウン」。キダとヒロミ・ヒロヒロ(Ba/Cho)のコーラスも映える。アーバンテイストな曲でのキダのオブリガートのセンスが独特で目が離せない。「右脳左脳」で16ビートのファンキーなナンバーが接続され、そこでもジャンルに縛られないtricot流のフュージョン感が展開される。さらにキダのディレイが生み出すドリーミーなロングトーンや、ヒロミのエフェクティブなリフが無二の空間を生み出す「WARP」もパフォーマンス。中嶋のトーキングボーカルも冴え、ここ2年ほどのtricotの進化を目の当たりにするブロックとなった。
後半に差し掛かる前、いわゆる大げさなバンド紹介やエンディングにつきもののプレイをしたあとで、対照的なほぼインストとも言えるナンバー「Dogs and Ducks」を披露。ラテン、エキゾチカを感じるビートにSFっぽさのある上モノが乗り、さらに声が綾をなす。その複雑怪奇さは<Brainfeeder>のアーティストに近い感覚を得た。
その後、一気呵成に12月15日に6枚目のアルバム『上出来』をリリースすること、それに伴う全国ツアー、そしてUK・ヨーロッパツアーを発表。コロナ禍以降、海外ツアーのアナウンスをした国内バンドはtricotが初めてではないだろうか。中嶋曰く「ヨーロッパ行っても(ライブが)1本もできへんかもしれない。でも行くって決めることが大事。今日も今日にならへんかったらわからんかったわけやし」と、未知の場所へ突き進んできたtricotのスタンスが改めて示された。ビッグニュースを発表して、さらに加速がついたのか、爆走する「悪戯」、メロディアスなベースからはじまるポップチューン「メロンソーダ」。ポップでありつつ、キダのフィードバックノイズや中嶋のロングトーンの力強さに、このバンドの青天井な奔放さを見た。
自分たちを通して新たなバンドに出会ってほしい、そんな『爆祭』のコンセプトを受け取りながらも、やはりtricotというバンドの「来る者拒まず」精神ーーそれは音楽性しかり、早くも組まれた海外ツアーしかりーーこそが最高に頼もしく思えたイベントだった。ちなみに『上出来』はインストバージョンとの2枚組という情報を得て、膝を打った次第。
■リリース情報
tricot
アルバム『上出来』
予約:https://tricot.lnk.to/Jodeki_CD
『爆祭(-Vol.14-)』-tricot セットリストプレイリスト:https://tricot.lnk.to/bakusai2021