AKB48の“大逆襲”は成功なるか? 『乃木坂に、越されました』総合演出に聞く、ひろゆきのMC起用理由や今後の方向性
7月よりテレビ東京でスタートしたバラエティ番組『乃木坂に、越されました~AKB48、色々あってテレ東からの大逆襲!~』。その挑発的なタイトルだけではなく、かつてAKB48のことを「顔面偏差値48」と評した論客・ひろゆき(西村博之)がMCを務めるということもあり、アイドルファンの好奇心を大いに刺激した。番組の総合演出・プロデューサーを担当するのは、これまで『家、ついて行ってイイですか?』『吉木りさに怒られたい』など数々の話題の番組を手がけてきた高橋弘樹。スタートして間もない中、さまざまな意見が飛び交う『乃木坂に、越されました』は、これからどうなっていくのか。その方向性やスタートまでの経緯について高橋に話を聞いた。(田辺ユウキ)
ひろゆきをMCに抜擢した理由
――今回の番組の企画はそもそも、AKB48側からの発案なのか、それともテレビ東京側なのか。どこがスタート地点だったのでしょうか。
高橋弘樹(以下、高橋):「AKB48の番組をやろう」という企画はいろんな方たちが協議して始まったことだと思います。番組内容や企画に関しては紆余曲折があるなかで決まっていき、私たち放送スタッフが手がけるようになりました。
――紆余曲折とは?
高橋:書ける範囲でお話ししますと、まずAKB48さんはメンバーが全員で89人(2021年8月現在)もいる大きなグループで、その分、関わる人たちも非常に多いということ。いろいろ企画を揉んでいくなかで、一つひとつきっちりコンセンサスを取りながらやっていかなければなりません。常に「こういう企画が良いですか?」と探りながらやっています。そもそも今回は企画先行型ではなく、タレントがメインとなる番組ですから。すみません、なんだか歯切れが悪い解答で……(苦笑)。
――いえいえ(笑)。高橋さんは著書『1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』(ダイヤモンド社/2018年)などでも書いていらっしゃいますが、「常識を覆していく」を番組作りの軸にされていますよね。今回で言えば、AKB48のどういう部分を覆そうとしていますか。
高橋:番組作りの部分では「MCは芸人」ということをやめました。アイドル番組は、MCの芸人さんと楽しくゲームやトークをしながら、新しい姿を見つけていくイメージが強かったと思います。でもそういう定番を崩す意味で、ひろゆきさんにMCをお願いしました。
――ひろゆきさんは番組MCを引き受けるにあたってどういう反応でしたか。
高橋:そもそもバラエティ番組でMCをやってくれる方なのかどうか分からなかったので、ほかの仕事のとき、AKB48の名前はまず伏せて「そういうの(バラエティのMC)ってお引き受けいただけたりしますか」と尋ねたんです。「スケジュールが空いていたらやりますよ」という返事だったので、一拍置いてから「AKBなんですけど」と明かしたら、「いやいや、何を考えているんですか。僕は昔、AKBさんのことを散々言っていたんですよ」と笑っていました。「だからお願いしたんです」と伝えたら、「おもしろそうだからやります」と興味を持ってくださいました。
――確かに「この組み合わせはどうなるんだろう」と想像がつかなかったです。
高橋:『乃木坂って、どこ?』(テレビ東京系)からMCをつとめているバナナマンさんは、乃木坂46にとって「公式お兄ちゃん」と呼ばれていますが、この番組のひろゆきさんに関しては、AKB48にとってのライバルや敵として存在してほしかったんです。「AKB48を本気にさせたい」という考えがあったので。
――「AKB48を本気にさせたい」というのは、高橋さんが現状のAKB48に物足りなさを感じていたからでしょうか。
高橋:僕自身、芸能やアイドルのことをよく知らないんです。だから物足りないかどうかは分からないのですが、番組を始めるにあたって、はじめにほぼ全メンバーと面談した時に、「もうちょっと闘争心があったら良いな、ギラッとして欲しいな」とは感じました。しかし限られた番組という時間の中で89人全員の魅力を引き出すのは不可能。そこで、提案する企画に対して自分から手を挙げてもらって、食らいついてくる人を中心に構成していきたいなと。本来であればAKB48の運営さんの推薦、もしくは選抜メンバーを起用するんですけど、そこは一切気にせず、やりたい人に立候補してもらっています。有名無名は気にせず、意欲が強いメンバー、おもしろいメンバーを選んでやっています。
前半は“初級編”としてスタート
――ひろゆきさんは実際、肩書きとしては「MC」ですけどコーナーなどを回す立ち位置ではないですよね。
高橋:便宜上はMCだけど、番組では鏡のような存在なんです。ひろゆきさんの発言は歯に衣を着せないので、AKB48の現状を言語化していく立ち位置ですね。アイドルってどこまでいっても完全なリアリティにはたどり着かないし、どこかにフェイクが混じっていて、虚像であることには変わりない。僕が担当した番組『家、ついて行ってイイですか?』みたいなリアリティはないと思います。だけどリアルを描くことがすべてではないし、最終的に出しきれなくても良いんじゃないかなって。むしろひろゆきさんは、メンバー本人たちが作り上げているその虚像がどのように見えているか、その鏡であってほしい。「あなたはこう見えちゃっていますよ」「馬脚があらわれちゃっていますね」とか、ズバズバと言ってもらっています。
――番組としては「AKB48対ひろゆき」という対立図の回が多い印象です。「ひろゆきさんを乗り越える」という展開をまず意図的に仕組んでいるんですか。
高橋:そうですね。そういった内容については、ファンの方が観るともどかしい部分があるかもしれません。だけど基本的にひろゆきさんが、AKB48の現在のメンバーのことを知らないんです。だったらまず、そんなひろゆきさんに自分たちのことを知ってもらう場を作りましょう、と。そこをクリアしないことには、先には進めない。そのあたりが「番組がもたついている」という印象につながっているかもしれません。
――今回聞きたかったのはその点なんです。
高橋:でもひろゆきさんの目線は、現在の世間の方のAKB48に対する目線と変わりがない気がします。前田敦子さん、大島優子さんらの“神7”の頃は、アイドルに興味がなくてもAKB48のことを知る人は多かった。自分もそうですから。だけど今って個々のメンバーの名前を言える人は少ない。そういう人たちに向けて「実はこういう可愛らしい子がいて、こんな演技ができるメンバーがいる」と知ってもらえるような、初級編的な感じで前半は進めています。