アミューズはIP開発によって新規ビジネスをどう育てる? 「コンテンツ開発部」担当役員が担う新たな試み

 エンターテインメントを中心に、シーンの第一線で活躍する多くのアーティストのマネジメントを手がけてきた株式会社アミューズが、「コンテンツ開発部」を新設した。この部署ではこれまでのマネジメントからもう一歩踏み込み、自社で開発を行い、知的財産の管理やプロデュース、オリジナルの原作窓口など、オリジナルIPを保有活用して幅広い事業の領域を広げる役割を担う。

 その具体的な取り組みとして、アミューズ、オリガミクスパートナーズ、AOI Pro.の3社による「AAO Project」がスタートし、新たなアイドルプロジェクト『STATION IDOL LATCH!』をスタートさせた。山手線各駅の駅員のキャラクターが業務時間を終えるとアイドルとして活躍するという、斬新なコンセプトで話題を広げつつある。また、新人アーティストの活動をサポートする「DIプロジェクト」も発表した。

 その「コンテンツ開発部」の新設によって、アミューズはどんな未来像を描くのか。その可能性について、すべてのプロジェクトを束ねる株式会社アミューズ執行役員の山内学氏に話を聞いた。(編集部)

IPを新人アーティストのように捉え、育てていく

ーーアミューズといえばアーティストマネジメントの印象が強い会社ですが、近年はコンテンツ制作に力を入れています。そのなかで、今回新設された「コンテンツ開発部」は、どんな役割を担っていくのでしょうか。

山内学(以下、山内):アミューズにはもともと、映画やドラマの企画製作を行う「映像企画製作部」というセクションがあります。そこでは、弊社所属の俳優たち始め、様々な方々にご出演いただき、人気原作やオリジナル作品の映像化を企画製作しております。例えば『深夜食堂』のように、映像化権など一部に限った権利をお預かりして、ドラマや映画などの映像作品として世に出していくといったケースが比較的多い状態で製作を行なってきました。他社が権利を保有されている作品をお借りしているという意味では、アミューズが長く培ってきたアーティストマネジメントになぞらえるなら「他社のアーティストをマネジメントする」ような感覚です。そうした中コンテンツ開発部の事業は、そこからもう一歩踏み込み、新しい試みとして自社で開発を行い、知的財産の管理やプロデュース、オリジナルの原作窓口であったりと、オリジナルIPを保有することで、IPを活用して幅広い事業の領域を広げる役割を担っています。

ーー5月に発表された「AAO Project」が、まさにその中の一つとしてオリジナルIPをプロデュースするという内容ですね。

山内:弊社と、オリガミクスパートナーズさんとAOI Pro.さんとのご縁もあって3社で立ち上げたプロジェクトです。AAO Projectでは、我々がこれまで行えていなかった、多種多様な原作者の方々と、40本のオリジナル原作IPと称する作品の開発を行ってきました。そして出来上がったオリジナル原作のIPを、漫画や小説、アニメ、ゲームなどの事業化に向けて、動き始めたところです。中には、二次元での表現に向いたもの、実写ドラマの展開が適したもの、など様々なIPがあります。編集に関わったメンバーや原作者となるクリエイターの方々と、それぞれのコンテンツに対する将来像のイメージを共有しながら、プロジェクトとしてオリジナルIP原作を作りあげてきた、という形になります。

ーーそれが40本、手元にある状態だと。既存の原作から映像作品を作るノウハウは蓄積されていると思いますが、ゼロからコンテンツを開発していくというのは、これまでと違った視点が求められそうです。

山内:そういった意味で、AAO Projectでの原作開発に関しては、弊社としても経験を積ませていただくところが大きかったと思います。オリガミクスさん、AOI Pro.さんのお力もお借りして、様々なクリエイターと組み、様々なジャンルの作品を開発してきて、そして開発の次は、いよいよ自社だけでなく様々な企業と事業を組ませていただき、世の中に出していくというタームになります。これまでは、映画化の権利をお預かりしたら映画を作るという枠の中での事業が多かったり、アニメに参画の場合も一部窓口をお預かりしてという形だったところが、AAO Projectでは3社のプロデュースワークで、原作者の方とも連携しつつ、それぞれのIPをアニメにも、漫画にも、ゲームにも展開できていく。つまり、いまある40本の原作IPを新人アーティストのように捉え、育てていくという試みだと考えています。

ーー今後、IP開発はさらにエンターテインメント業界において鍵になってくると思いますが、アミューズとしても重要視していると。

山内:そうですね。アミューズにはアーティストマネジメントと、そこに連携をするライブやグッズなど様々な事業という大きな軸が一本あるなかで、これまで非マネジメント事業、つまりコンテンツに紐づいたライブや舞台、グッズ展開などの事業などは決して多くなかったですので。コンテンツ開発事業において、オリジナルIPを多メディアで展開していくことは、そこから派生したグッズ展開や音楽ビジネス、ファンクラブ、なども含め、社内で経験を蓄えてきたリソースでビジネスができるということと思っております。また、弊社にはCDを製造販売する機能もありますし、オリジナルの実写映像を作ることもできる。オリジナルのIPのプロデュースの権利を保有することで、幅広い事業展開の可能性が広がりますし、これまでアーティストマネジメントを軸に作ってきた機能を活用し、様々な部門に刺激が与えられたらとも思っています。新規の事業ですので、結果が出せるようになるにはまだ時間もかかると思いますが、3年、5年かけてヒットコンテンツが出てきたときに、会社としてもスケールをさらにあげていく原動力になれるよう注力する覚悟です。

ーーアミューズには多くのタレントが所属していますし、例えばアーティストがIPを開発する、という可能性もあるかもしれないですね。

山内:そうですね。音楽アーティスト、俳優、アスリート、文化人など様々なジャンルのアーティストが所属しているので、ぞれぞれの担当スタッフやアーティストが持っている知見を活かして、IPとして開発していく、という可能性は大いにあると思います。そうすれば、例えばアーティストの発想をこれまでとは違う形で世の中に発信できますし。しかしそのためにも、まずはコンテンツ開発部が知見を得ていく必要があるだろうと。アミューズという事務所に所属すると、映像作品やCMに出演するとか、様々な音楽活動ができるという以外に、自分たちが面白いと思っていること、トライしてみたいことを具現化できる。そう思ってもらえるような、アイデアをすくい上げられる部門にしていきたいと考えています。

ーーAAO Projectの具体的なプロジェクトとして『STATION IDOL LATCH!』が5月にローンチしました。

山内:オリガミクスのメンバーからの「私、駅員さんが好きなんです」という一言から原作開発が始まりました。そのアイデアを、のちに原作開発に参画されるジェイアール東日本企画(以下、jeki)さんに持ち込んで、jekiさんが興味を持ってくださり、山手線各駅の駅員が、業務時間を終えるとアイドルとして活躍するという原作が開発されました。開発チームによって、各駅の特性やキャラクターなど、かなり綿密にリサーチが行われ。その上で、山手線の30駅を擬人化するのではなく、駅や街の要素を取り入れたキャラクター30駅分が作られていきました。5月にスタートした事業化においてもAAOだけでなくjekiさんもご参加くださり、JR東日本さんにも監修協力をしていただく形になった次第です。

 山手線は、日本でいちばん知名度の高い路線だと思いますが、アイドルという設定を通じて再認識してもらうことで、各駅の魅力を伝えるだけでなく、その先にある街を盛り上げることができてくると、非常に面白い企画になると考えています。駅や街を愛する駅員が活躍する物語を作ることで、その街に行ってみたいと思うような企画に育てていきたいと考えています。

ーー山手線沿線の街にある文化やその魅力も伝えるプロジェクトだと。

山内:そうですね。原作開発の段階で、東京駅でいうと、駅舎から感じる厳かな雰囲気をキャラクターに反映してみたり、韓国カルチャーが根付いた新大久保駅ならK-POPを感じるテイストにしたり、ビジネスパーソンの多い大人の街である田町や新橋であれば、アイドルなんですが50代のキャラクターだったりと、様々な要素がふんだんに盛り込まれております。声優さんも年齢に応じたキャスティングをさせていただいたり、プロジェクトチームとしても、各駅の特性を活かして、山手線の魅力を面白く描けたらいいなと考えています。

ーー「アイドル」という枠組みに縛られない、バラエティ豊かなものになりそうですね。

山内:プロジェクトチームには、原作開発から関わってきたメンバーや、事業化してから参加したメンバーもいるのですが、いろんな意見を交えながらボイスドラマが作られていっています。アイドルイコール、見た目の良さや若いことが全てではなく、“その駅や街を愛しているという気持ちが強い駅員さんがその駅のアイドル=LATCH!である”というお話になっています。そうした30駅それぞれのストーリーや、物語のなかで生まれた出会いからもユニットが派生していきます。楽曲とボイスドラマを収録した1st CD『STATION IDOL LATCH! 01』が8月にリリースされますが、楽曲もすべてが王道のアイドルソングではなく、キャラクターの個性によっての多様性のある楽曲が今後たくさん登場してきます。ボイスドラマにも各駅の個性が出るような要素があります。また駅員さんを題材に描かせていただいているので、駅員さんが日ごろ、駅のホームで人が安全に乗り降りできるように心がけていらっしゃるお仕事のシーンも繊細に描いています。そのように多くの視点からを楽しめるコンテンツになっていると思います。

ーー相当作り込んだプロジェクトですね。

山内:そうですね。このプロジェクトは、ある種アーティストマネジメントに近いとも思っています。30人の駅員でもありアイドルでもあるメンバーたちを、僕らが2年、3年かけてスターダムにのしあげることが、このプロジェクトの挑戦でもあるかなと思っていまして。歌があって、音楽があって、ボイスドラマがあって、ファンミーティングやライブも行われていく……。という展開のなかで、それぞれの駅を盛り上げ、街を盛り上げる企画を作っていく。ある種の、地方創生にも繋がり得ると思っています。そのためにまずは『STATION IDOL LATCH!』を多くの人に知ってもらい、いろいろな場所に住んでいる人が東京に来たときに、この作品で知った「あの街のあの場所」に行ってみたいとか、東京の人も東京を再発見できるように思ってもらえたらと思います。

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