フルアルバム『Turn』インタビュー
Newspeak、再認識した“バンド”であることの価値 『Turn』に反映されたメンバーの新たな関係性
職業を越えた僕らの関係性が詰まっている
ーーNewspeakのサウンドは既存のロックのサブジャンルで形容することが難しい個性があると思うんですけど、例えば「Animals」では4つ打ちが3拍子になるところや、「Blinding Lights」は間奏のサイケ感などはThe Beatles、「Hear It Out」でフルートを採り入れる発想はJethro Tullといったように、60年代から70年代のブリティッシュロック/サイケデリックのマジカルな要素が土台になっているんじゃないかと思うのですが、いかがでしょう。
Rei:特にThe Beatlesからの影響は強いと思います。The Beatlesみたいな曲にしようとか、特定の曲のある部分を引っ張ってくるとか、意識的にそういうことはしていないんですけど、僕は母親がThe Beatlesのアルバムを全部持っているくらい好きで子供の頃から日常的に耳に入ってきましたし、大人になってそのレコードを譲ってもらったんですよね。Stevenは歌も歌うんですけど、弾き語りのレパートリーはThe Beatlesが多い。Yoheyもルーツとしてはかなり大きいよね?
Yohey:リッケンバッカーのベースを使っているのはThe Beatlesへの憧れもあるしね。
ーーなかでも「Animals」の、4つ打ちのハウス/ディスコにサイケデリックロックの装いと3拍子をミックスすることにした理由はすごく興味深いです。“Tame Impala”というバンド名も出てきますし。
Rei:この曲はさっきもちょっと言いましたけど、コロナとか社会情勢とは別軸の曲で、欲望に勝てない男と女(Animals)の話で〈her eyes shine like a cheetah〉(女の目はチーターのように光る)という歌詞が浮かんで、チーターに捕食される動物を調べたらインパラで、じゃあTame Impala(飼いならされたインパラ)にしようって。3人ともTame Impalaは好きだし、パズルのピースがばっちりはまったんですよね。どの曲にも言えることなんですけど、言葉は連想ゲームみたいに出てくることが多いですね。
Steven:3拍子はもともとなかったんだけど「これじゃあよくある4つ打ちの曲だからおもしろくない」って話していて。
Rei:で、3拍子を入れることを思いついて持っていったら、Stevenが「なにこれ? ぜんぜんよくわからない」って言うんですよ。でも同時に、1コーラス目のAメロをアレンジしてつなぎ目に使ったらいいかもってアドバイスをくれたからやってみたら確かにめちゃくちゃよくなって。
ーー「Generation of Superstitions」はインディーダンス/マッドチェスターの香りを漂わせつつ、モータウンっぽく跳ねるリズムがうまく混ざってくる曲です。そこに当てるベースラインは明るい雰囲気が常套のような気もするんですけどどこか不穏な響きがあって、一筋縄ではいかないNewspeakならではのサイケデリアと組み合わせの妙が光ります。
Rei:みんないい違和感、いい気持ち悪さみたいなものに反応するんですよね。単純に気持ちいいところにもいきたいんですけど、コロナの影響でリモート、言わばそれぞれが野放し状態でアイデアを持ち寄るやり方が中心になってくると、特にその気持ち悪いけど気持ちいいみたいなところが顕著に出てくるんです。
Yohey:ドラムは頭のパワフルで重心の低い感じだけでできていたんですけど、確かにマッドチェスターとかインディーダンスとかそのあたりの話もしつつ、パターンを加えていきました。
ーーそういったさまざまな曲があるなかで、「Weightless」は、ダイナミックなフィルが炸裂しての王道8ビートという“ザ・ロック”なドラムがむしろ新鮮で。
Rei:特に意識はしていなかったんですけど、ほんと王道の8ビートですよね。なんでこうなったんだろう……。そうだ、『No Man's Empire』のツアーのリハでStevenが8ビートを叩いていて、僕がそのとき暇だったからYoheyのムーグで作っていた曲を合わせて弾いてみたらめちゃくちゃはまったんですよ。で、そのサウンドを頭のなかにキープしながら、Mac Bookに入れてブラスのサンプルを引っ張ってきてって、簡単な流れを作ったんです。
Yohey:サウンドチェック中に音が止まるとキーボードの音が流れてくるんですよ。「なんだ?」と思ったらReiのパソコンからで。見たら必死に曲を作ってました(笑)。
Rei:それを今回のアルバムに向けてみんなで作り込んでいったんです。
ーー「Jerusalem」はメロディとボーカルの質感が美しい。
Steven:スタジオでボーカルエフェクターをつけっぱなしで遊んでいたら「これいけるやん」ってなったんだよね。
Rei:例えばThe Japanese Houseみたいな、ボコーダーが気持ちいい曲を作ってみたいってずっと話していて、そんなこんなでつけっぱなしにしていたらおもしろくなってきて。
ーー「Vinyl Wings of Wanderers」や「Silver Lines」は、Newspeakを昔から追っている人たちにはすごくなじみのある雰囲気を持っていて、そこに前回のEPのインタビューで話していただいた「Pyramid Shakes」的な引き算の発想を加えたような曲だと思いました。
Rei:それはまさにそうだと思います。「Vinyl Wings of Wanderers」は47都道府県ツアーの道中にずっとアコギで作っていた曲なんです。
Yohey:ビートも、Stevenと僕がホテルの部屋で作って。その頃の原型とはまた違ったものにはなったんですけど。
Rei:「Silver Lines」はそれよりも前、『No Man's Empire』に向けて作っていた曲で、うまくはまらなくて「別に今出す必要もないか」って、放置していたんです。でも今回のアルバムを作っていくなかで感情的に力の入った曲が多かったから、もうちょっとナチュラルなテンションで乗れるような曲をと思ったときに、ちょうどいいような気がしたので引っ張り出してきました。そこに今のモードで構成やアレンジを変えたり、新しい部分を加えたりして録り直したので、2曲とも僕らのことを前から知っている人はちょっと懐かしいと思うようなバイブスは入っていると思います。
ーーこうして曲作りについての話を聞いていると、Reiさんが最初におっしゃったように、Newspeakはまぎれもなく“バンド”でみなさんは“バンドマン”なんだなって。
Yohey:ですね。曲の卵みたいなのがあって、これをメンバーと一緒にどうやって仕上げていこうかとか、考えているときに「バンドマンやな」って思いますね。1曲1曲にメンバーと作ってきた物語がある。音楽をやっていること、ミュージシャンであることは職業ですけど、Newspeakのメンバーであることは職業じゃないというか。もちろんチームで動いているから仕事なんですけど、なんて言うか、僕ら3人にしかわからないスポットみたいなものがあるんですよね。職業を越えた僕らの関係性が詰まっている。今回はコロナでバンドであることを再認識したぶん、特にそういう色が強い作品だと思います。
Steven:Reiが持ってきた仮のメロディを聴きながらドラムを叩いて、それをYoheyに渡したらぜんぜん予想していなかったベースラインがきて、僕のセオリーだと「え? なんでこうしないの?」とか思うんだけど、「でもこれも悪くないな」って発見があった瞬間とか、バンドをやっていてよかったって思う。
Rei:そういうサプライズがないとたぶんやってないだろうし。
Steven:想像できるものがきたらそれは仕事だし、だったら一人でやったほうが早いし楽しいよね。
Rei:あと、いちリスナーとしてよく思うのが、ロックバンドってアルバムにめちゃくちゃ力入れるじゃないですか。10曲単位でそのタームに感じていたことを深く掘り下げるから、その時その人たちがどんなことを考えていたのか、人生のどの分岐点にいたのか、そういうことが見えてくる。たとえそれが何十年も前の作品であったとしても、熱が冷めることなく今の自分に降りかかってくる感じが大好きなんですよね。
ーーチャート的にはロックにとって冬の時代が続いていましたが、近年は復活の兆しがあって、今年のUKチャートではThe SnutsやInhalerといった新人バンドや、You Me At SixやWolf Aliceといった10年世代に気を吐いた数少ないバンドなど、多くのバンドやロックアーティストが1位を獲っています。アメリカではまだまだ厳しい状況が続いていますが、ラッパーやポップアーティストのサイドから90年代~00年代のポップパンクやエモがアップデートされています。これは素直に追い風とみていいと思うんですけど、いかがでしょう。
Rei:感覚的な話ですけど、コロナの状況も不安は多く残ってはいますけど以前よりは先が見えるようになってきたことで、生で音楽を感じたい、外に出たいという感情が大きくなってきている人は多いと思うんです。その感情をもっとも爆発させられるのはロックだと思いますし、ひとつの自然な流れのようには思いますね。
Yohey:僕もコロナの圧迫に対する反動はあると思います。そうなったときに、ライブハウスやフェスの良さを知っている人は、たとえそれが記憶の片隅だったとしても呼び起こされて、また行きたいと思うんじゃないかと。
Rei:僕らもそういう流れがあるなら乗っていきたいって、素直に思います。
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・【特集】Newspeakの過去・現在・未来ーー音楽への大きなエネルギーを紐解く
■リリース情報
『Turn』
発売:2021年7月28日(水)
価格:¥2,500(税込)
1. Blinding Lights
2. Generation of Superstitions
3. Hear It Out
4. Pyramid Shakes
5. Morning Haze
6. Great Pretenders
7. Weightless
8. Jerusalem
9. Animals
10. Summer Wasted
11. Vinyl Wings of Wanderers
12. Silver Lines
13. Parachute Flare
特設サイト
■ライブ情報
『Turn Tour』
9月11日 (土) 仙台 MACANA
9月18日 (土) 大阪 Shangri-La
9月19日 (日) 名古屋 SPADE BOX
9月20日 (月祝) 金沢 vanvan V4
9月22日 (水) 高松 DIME
9月24日 (金) 福岡 Queblick
9月25日 (土) 広島 SECOND CRUTCH
10月9日 (土) 東京 LIQUIDROOM