豆柴の大群、ツアー&武者修行を経て向上したパフォーマンススキル がむしゃらな努力で掴み取った豆粒の心
「MOTiON」のデジタルハードコアをさらに凶暴化させたような「PUT YOUR HANDS UP」は、キレキレのダンスに切迫感のあるボーカルが特徴。極め付けが随所に降臨する“カエデーモン”だ。カエデーモンとは、カエデフェニックスの第2の人格。水着グラビアも担当するそのセクシーキャラとは裏腹なインパクト大のデスボイスである。かつて、BiSHの無口担当であるリンリンが金切り声で絶叫しながら客席に向かってダイブしている姿を見たときは「無口担当では!?」と心底痺れたが、それに近いギャップをカエデーモンには大いに感じる。その証拠にサウンドプロデューサー・松隈ケンタ(SCRAMBLES)はこのカエデーモンを気に入り、『WOW!!シーズン』収録の「DEAD iNSiDE」にも採用している。この日、「DEAD iNSiDE」が披露されることはなかったが、例えばミユキエンジェルが「豆柴の大群 -お送りするのは人生劇場-」で見せる(歌う)“吉川晃司”のように、ライブにおける見せ場になっていくことを確信させた。
先述した2ndブロックは「PUT YOUR HANDS UP」を皮切りに「FLASH」、「MOTiON」と徐々に熱を帯びていくハードな楽曲を固めたパート。セットリスト全体に視野を広げれば、ライブのオープニングと締めを飾った「人生劇場」に、本編ラストをドラマチックに彩った「今」「大丈夫サンライズ」の2曲と、もはや豆柴のライブを語る上で欠かせない楽曲/セットはいくつもある。一方で、新たなキラーチューンとしてフロアを盛り上げていたのが、「PUT YOUR HANDS UP」と同じ『WOW!!シーズン』からの新曲群だ。
恒例のコントの流れからシームレスに披露された「走れ豆柴」は、運動会のBGMとしてお馴染みのクラシック音楽「天国と地獄」のメロディを大胆にサンプリングした、『WOW!!シーズン』のテーマでもある「犬」を、そして豆粒への愛を惜しげもなく歌詞に詰め込んだリード曲。サビにある〈守らせて 愛させて〉という歌詞は作詞を担当したミユキによる豆粒に向けたシンプルかつこれ以上にないメッセージである。自ら目の前にいる豆粒に伝えるミユキの幸せそうな笑顔が印象的だった。
「まめサマー!?」は、しっとりとしたイントロとアイカ・ザ・スパイの歌い出しから一転してアゲアゲなユーロビートでブチ上がる「サマバリ」に続くサマーチューン。相変わらず意味不明なクロちゃんが手がける歌詞に、ブンブン振り回すタオルが加われば、何も考えずに楽しめる最狂のライブチューンに変貌する。「大丈夫サンライズ」にて掲げられたたくさんの拳もそうだが、この「まめサマー!?」の盛り上がりを2階席から見た時に、公演を積み重ねてきたからこそ生まれた豆粒との一体感を強く感じた。この日、豆柴を初めて観た豆粒もいれば、ツアーを何箇所も帯同してきた豆粒もきっといる。メンバーに声援を送れないからこそ、その分、拳で、タオルでその熱い思いを示していた。
『WOW!!シーズン』から披露されたもう1曲「魔法の言葉」は、ナオ・オブ・ナオ、ハナエモンスター、ミユキによる作詞曲。ミユキの言う自身の暗い歌詞に、ナオとハナエの明るい歌詞が乗ることによって自然と前向きになれる曲になったこと、そしてサビの終わりにある〈たらりらるら〉から「ら」を抜くことによって「足りる」というミユキなりの“魔法の言葉”になるというメッセージも、豆粒の心を優しく包む一つの要素だったように思う。
前回の『実力をしっかりとつけるツアー』終了後、メンバーにそれぞれインタビューした際、体力と一緒に課題として挙がっていたのがライブのMCだった。この日、「今」「大丈夫サンライズ」の前の最も重要なMCを任せられたのはカエデ。豆柴に一人遅れて加入したカエデは不安を吐露しながらも、ツアーで出会った豆粒の応援に心を動かされていたと涙ながらに伝える。
「私にもきっと何かあるはずだって、豆柴の大群のために何かできるはずだって思わせてくれました。今日は出会ってくれてありがとう。きっと皆さんも悩むこと、傷付くことがあるかもしれない。でもあなたは素敵だから大丈夫。落ち込んだとき、くじけそうなときに私たちは寄り添えるようなアイドルになりたい。あなたの人生と一緒に歩いていきたいと思います」
それは、豆柴のメンバーもまた豆粒に心を掴まれていたということ。愛し愛されての関係性は豆柴の礎となって、この先も続いていく。
約1年ぶりとなるホール特別公演が10月3日に舞浜アンフィシアターで開催される。タイトルは『豆柴の大群の疾走』。何かを求めるフェーズは終了し、『りりスタート』から地続きの走り続ける豆柴を連想させる。総合演出は『水曜日のダウンタウン』の演出を担当する藤井健太郎。恒例のクロちゃんに加え、サプライズゲストにさらば青春の光を迎えたツアーファイナルのコントは、過激なネタが織り交ぜられた内容だった。コントの脚本はメンバーが手がけてもいるが、この日は藤井が担当している。終演後の関係者挨拶で、メンバーは「私たちには書けない」とそのクオリティの高さと藤井への信頼を滲ませていた。「走れ豆柴」のMV監督など、「MONSTER IDOL」以降もクリエイターとして関わり続けている藤井の手によってメンバーの新たな表情があらわになるのではないかと。そんな予感がしてならない。