『SATANIC CARNIVAL』プロデューサーI.S.O 考え抜いたフェス開催の先にあるものとライブハウスカルチャーの本質
コロナ禍で気付かされたのは、ライブが好きだなっていうこと
一一全員が共有していた気持ちは、I.S.Oさんのステートメントにあった文章に尽きると思います。「音楽がある、ライブがある。居場所がある。喜びがある」(※2)。
I.S.O:そうですね。ほんとに。なんだかんだコロナ禍で気付かされたのって、ほんとにライブが好きだなっていうことで。楽しみが全部なくなって、久々にドーンって音を浴びて……みんなどこかで経験してると思うけど、初めてライブハウスで全身で音楽を感じた時の喜びが戻ってくるみたいな。音楽、ライブって、ほんと「このために頑張れる!」って言えるものだなって思いましたね。「やってくれてありがとう」っていっぱい言われましたけど、自分的には「いやいや、お互い様ですよ」と。バンドには「ステージに立ってくれてありがとう」だし、お客さんには「今日ここに居てくれてありがとう」だし。お互いに良かったねって言える二日間になりましたね。
一一あと、Ken YokoyamaのMCで「やらなかったら終わり。終わったら始めるのは相当難しい」というものがありました。彼らしい言葉です。
I.S.O:ほんとそうだと思いますよ。今思うと……いろんな思いが混ざっちゃいますけど、『サタニック』一個に限らずほんと僕の中では全部が繋がってて。それこそ自分のモチベーションって、辞めちゃったスタッフの子、潰れちゃったライブハウスとか、全部入ってるんですよね。たった一個のイベントだけど、これが未来に繋がっていかないと、本来音楽やライブに出会うべきだった若い子が出会わないまま通り過ぎていっちゃうこともあり得るじゃないですか。一回中止してしまうことの重大さを、いろんな側面で感じたんですよね。ここで中止の流れを作っちゃうと「どこかで緊急事態宣言が出てたらできない」ってムードも出てくるだろうし。あと、会場でお酒を出さないことも、最初は気にしてなかったんです。行政から出しちゃダメとも言われてなかったし。
一一あ、そうなんですか。
I.S.O:そう。でも冷静に考えて、『JAPAN JAM』とか『VIVA LA ROCK』がお酒を出さないでやってるのを見て、サタニックもあえてそういうことにして。
一一いろんな人の気持ちを汲み、全体を巻き込んでいくことで進めていった。
I.S.O:そう。気持ちをお預かりして、いろんなパスをもらって、俺はここをしっかりやるから次に繋げて、みたいな。ほんと音楽業界は去年からずっと努力してるし、お客さんは我慢しながらも、許された場所に本当に必要な人たちが集まることで、大きな事故もなく脈々とやってきた実績があって。その全部が地続きだったし、繋がってましたね、自分の中で。
一一それって「続けていこう、繋いでいこう」っていう……。
I.S.O:横山健イズム(笑)。そこはDNAレベルで組み込まれてますね。ほんとに。もともと僕こんな人間じゃなかったんですよ。もっとユルユルのお調子者だった。それがPIZZA OF DEATHに入って、考えるべきところは考えて、向き合うところは向き合って。やる、という意思を持つことがどういうことなのか考える。そういうのは全部、横山さんの背中を見ながら教わってきてますね。もちろん、ご心配をかける部分もあったと思うんです。最初にライブハウスでクラスターが出た報道を引きずってる部分もあると思う。ライブハウス=危険なところ、みたいに家族から言われることも当然あるだろうし。そこは我々側の努力が必要で、しっかり発信していく必要があって。少なくとも「音楽業界はちゃんとやってます、オーディエンスもマナーを守って楽しんでますよ」っていうところは言い続けていかなきゃ。
一一何もかも異例でしたけど、あえて言えるメリット、今回のポジティブな効果ってありましたか。
I.S.O:……でもお客さん、出演バンドがほんとに喜んでくれたこと。月並みですが。間違ってなかったなって確かめられたというか。あとは、こんなふうに場所を変えるのもアリなんだって思ったかな。
一一確かに。野外開催なんて今まで思いつきもしなかった展開。
I.S.O:そう。だから大事なのは人と人の関係性で。バンドとオーディエンスの関係性は、場所を変えたり形を変えても成立するんだなって。「『サタニック』は自分たちの居場所だよ」ってずっと言ってきたけども、今一度本質を確かめられたなって思いますね。どこでもやれる。
一一ライブハウスカルチャーってもちろんハコから生まれるんだけど、そこで生まれた本質は、ハコの存在に関係なく育っていく。
I.S.O:不思議ですよね。まぁもちろん、帰るところがある、最終的にライブハウスに帰れるぞ、っていう気持ちがあるからこそ、みなさん野外でも集まってくれたんだろうけど。でもライブハウスで何を感じるのか、ですよね。お酒が楽しみな人もいれば、あとは友達とか誰かに会えることが何より大事な人もいる。音楽だけじゃない。ほんとに深みのある文化ですよね。去年1年、どのライブハウスを見ても音楽業界全体を見ても、希望がないなと思ってしまったんですよね。特に若い子たちにとって。だったら大人に何ができるんだろうって思った。『SATANIC CARNIVAL』でしっかり発信していきたかったんですね。サバイブしていくことで打ち勝てること、音楽に限らず、どこでもあると思うんです。
一一その通りだと思います。ちなみに、来年の状況については?
I.S.O:や、まだわかんないです。もうちょい状況を見て。来年の話を今決めちゃうと、逆に自分を凝り固めてしまう気がする。ただ、最低でもこのかたちでならできるってわかった。それって大きいことで、最低でもこれならできるってわかったうえで、来年に向けてどう足し算ができるのか、そういう考えになると思います。ほんとはもっとイージーに、「来年もやります、よろしく!」って言いたいですけどね(笑)。
(※1)https://satanic.jp/news/detail/OTQ3
(※2)https://carnival.satanic.jp/2021/