YOASOBI、配信ライブの未来の可能性も感じた『SING YOUR WORLD』レポ カメラ越しだからこそ映える演出も
「最後の場所に行きます」と意味ありげに2人が言うと、再びカメラが移動していく。どこからか流れるオーケストラのメロディに誘われるように進むと、制服姿の大人数のオケが待ち構えるホールへとたどり着く。始まるのは「ハルカ」だ。マグカップが自分の主人である少女の人生を見守る、というストーリー仕立ての「ハルカ」は、もともとドリーミーな雰囲気の曲だが、フルオーケストラの演奏によって、より壮大でファンタジックな空間を生み出した。
このオーケストラは、大阪桐蔭高等学校吹奏楽部の部員で、なんと総勢172名。「Ayaseさんの1台のPCからできた曲を172人で演奏することになるなんて」と感慨深く感想を述べたikura。彼らと共にラストを飾るのは「群青」。若者の瑞々しい挑戦、未来へともがく姿を描いたまさしく青春ソングであるこの曲を、現役高校生たちと演奏する光景は、楽曲のコンセプトをそのまま形にしているようで胸に迫るものがある。曲終盤の大勢でのコーラスも、よりいっそう鮮やかだ。ほんのりと青い紙吹雪が舞い、オケに囲まれてホールの中心に立つAyaseとikuraの姿は、ライブを越えてスペクタクルを見せられているような圧倒的な没入感を生み出していた。
拍手に包まれるホールから遠ざかり、オープニング映像をさかのぼるようにカメラは会場の通路を戻っていく。その道の途中で映されるUTには、スタッフの名前が記されている。この凝ったクレジットの演出は、建設中の新宿ミラノ座で行われた初のライブ『KEEP OUT THEATER』で、壁や床にスタッフの名前を描いて映していたクレジットを思い起こさせる。
コロナ禍により、ライブ形態について試行錯誤が繰り返されてきたこの1年半。配信ライブの焦点は“いかに生のライブの迫力を損なわないか”というところから、“配信でしか見せられない映像を作ること”へと変わってきているのを感じる。
そんな中で、UNIQLO CITY TOKYOというオフィスをまるまる活用し、カメラ越しでこそ映える演出を盛り込んだ『SING YOUR WORLD』。今後世情が落ち着き、また当たり前に有観客ライブができる世の中になったとしても、「配信でしか見られないもの」を届けるために、ポジティブなものとして配信ライブが一つの選択肢になるのだろう。そんな未来の可能性までも感じさせるものに仕上がっていた。
2019年末に公開された「夜に駆ける」がメガヒットとなって以降、1st EP『THE BOOK』のリリース、初ライブである『KEEP OUT THEATER』、「三原色」など新曲の発表と、第一線を最高速度で駆け抜け続けてきたYOASOBI。その活躍の軌跡は、彼らが「運よくヒットしたラッキーマン」などではなく、本当の意味で才能ある2人組であることを見せつけ続けるものだった。最終的には28万人同時視聴に至った『SING YOUR WORLD』は、その最高の証明だったように思う。
■満島エリオ
ライター。 音楽を中心に漫画、アニメ、小説等のエンタメ系記事を執筆。rockinon.comなどに寄稿。満島エリオ Twitter(@erio0129)