『On weekdays』インタビュー
the engy、今を生きることから生まれるオリジナリティ アルバムに落とし込まれた“山路洸至の普遍的なテーマ”とは?
レジェンドに勝てるとしたら「後に生まれた」ことだけ
ーー自己流ですからね(笑)。アナログでいうと「Lay me down」はすごくレアな音が鳴っていますよね。
山路:その曲は、2人の気持ちがくっついてるわけではないんですけど、自分の中ではハッピーな気持ちを書こうと思った曲で。実際にある音を使って作るサンプリングってあるじゃないですか。でも実際の音じゃなくて、曲の考え方みたいなものを入れ込んで混ぜたら面白いんじゃないかと思って。音の作り方はThe 1975とかを聴き込んで「こういうのやな」と思ったり、そこに「ちょっとOasisっぽいロック感を出したいな」とか、「曲全体の雰囲気としてマーヴィン・ゲイのハッピーな気持ちになるムーディさを入れたいな」みたいに組み上げていった曲ですね。
ーーなるほど。だから、聴いていて時代感が謎だなと思ったんですよね。60年代の手触りもあるんだけど、でもすごくモダンな構造を持っているし。
山路:そこを目指しましたね。質感は古い感じなんですけど、考え方とか構成の仕方は新しくしていきたいと思って。ビートの打ち方はケンドリック・ラマーとかを聴いてヒップホップっぽい要素を入れながら作っていきました。
ーー面白い。そのミクスチャーはユニークな発想かもしれないですね。
山路:やっぱり、基本的に音楽に詳しくないんですよ。すごく売れていても聴いたことないものもたくさんあって、全然知らないバンドもたくさんいる。だからこそ、そういうものを混ぜることに抵抗がないというか。自分にすごく個性があるとは思っていないんですよ。でも、レジェンドたちに対して勝てるところがあるとしたら、「その人たちより後に生まれた」ことしかないと思っているんです。マーヴィン・ゲイはビリー・アイリッシュを知らないわけじゃないですか。でも僕らは両方知ってる。だからこそ挑めるものがあるから、それを混ぜたら面白いっていう見方をしていくのが、オリジナリティに繋がるのかなって。
ーーそれはたぶんthe engyというバンドの根本的なところですよね。
山路:そうですね。何か思いついたとしても、どうせ誰かがやっているんですよ。僕は大学院に通ってたんですけど、そのときにそれをすごく教えられて。「新発見みたいな感じで書いてるけど、それもう100年前に言われてるからね」みたいな(笑)。マジですか、っていう。
ーーははははは。
山路:他の研究者さんでも、こういうことだと思いますみたいなことを言うと、「それ本居宣長がすでに言ってるけど」みたいな(笑)。そういうことをたくさん経験したので、新しいことを何かしようとすると、「どうせ誰かがやっているからな」っていうのはあって。新しくて自分の出したいものを作るなら、他のものを見て、「これとこれとこれは合わさったことがないんじゃないか」というのをやっていくのが、実は一番新しくて、自分のやりたいことなんじゃないかなっていう気がしたんです。結局そうやって選んでいるのは自分なので、すごく自己中心的な選び方なんですけどね。
ーー単純に「これが売れているから」とか「流行っているから」という理由で取り入れてるわけじゃないですもんね。別に今マーヴィン・ゲイ、流行ってないし(笑)。
山路:まあ、売れてるから入れちゃうっていうことでもいいんですよ。ただ、自分がやるとなると思想みたいなものが気になっちゃう。アルバムにテーマを持たせることにも繋がるんですけど、「これとこれをなぜ混ぜるんだ?」っていう意味での思想をちゃんと持ちたいんですよね。そこがないと自分の中でちょっと下品に思えちゃう。理屈っぽいんで、ずっとそういうことを考えているんです。それが楽しくて仕方がない(笑)。
ーーそれってかなり独特な考え方だと思いますよ。枠を決めないで作っていったほうが自由だし楽しいじゃんっていうアーティストのほうが多いと思う。
山路:そうかもしれないですね。パズルって最初が一番難しいじゃないですか。例えばあと15個埋めるだけやったら、たぶん残りのピースを見たら埋められる。だからそこを最初に埋めるっていう感覚ですね。埋まっているほうがやりやすいから。
人の心は平日に揺れ動く
ーーよくわかりました。アルバムの最後に入っている「朝になれば」は全編日本語詞で、しかも曲調的にも今まであまりないようなフィーリングの曲になっています。これはもう最後に置くべきものとして作り上げていった感じなんですか。
山路:実は原型はもう3年くらい前からあって、当時日本語にトライしようとしてたんですよね。そのときに「ちょっと遊びで作っちゃいました」みたいな感じの曲やったんですよ。今回そういうテーマで考えたときに、「この曲ピッタリやな」と思って入れました。チャレンジした感じが出ている曲だなって自分でも思います。
ーーそうやってちょうどハマったということは、やっぱり今作のテーマってアルバム用に持ってきたものではなくて、山路さんの中にずっとあり続けてきたものなんでしょうね。
山路:きっとそうだと思いますね。新しい何かを出したというよりは、今まで掘り下げていなかった方面を掘り下げた感じなので。今までやってきた中で、「ここをもっと掘り下げられるんちゃうか」っていうのが見つかった感じです。
ーー掘り下げてみて気づいたこと、発見したものってありましたか?
山路:アルバムタイトルの『On weekdays』は“平日”という意味なんですけど、意外と平日って心が動いているなと。休日は休日で素晴らしいですから、それを題材にした音楽っていっぱいあるじゃないですか。けど、平日でも人間の気持ちってこんなに動いていたんやなっていうのは面白かったですね。
ーー確かに、平日なのにめちゃくちゃエモーショナルな時間が流れているという。
山路:最初は平日だと思っていなかったんです。ただの1日だと思っていたら、「あれ、仕事に行ってるってことは平日か?」「平日にこいつらこんなことしてんの?」って気づいて(笑)。また次の平日のために気持ちを整えないといけないから、夜中かけて2人で気持ちを整えているんですよね。それで1曲目に戻ると、また朝が来てやっと気持ちが一つになる。このアルバムって、結構ループしているなというのは感じます。
ーーちなみに山路さんの平日はどんな感じなんですか?
山路:僕自身の平日なんてもう、口癖は「仕事終わったらゲー吐いて寝よう」みたいな感じですよ(笑)。慌ただしくて、ウワーって感じですね。子供ができたので、子供の面倒を見て仕事して帰ってきて……みたいな毎日。妻の頑張りのおかげで、他のお父さんよりは楽させてもらってるかなって思いますけど。
ーーお子さんが生まれて音楽への向き合い方も変わりました?
山路:子供に聴かせることを少し意識するようにはなりましたね。子供にメロとか聴かせてみて、反応がいいやつを採用するとか。あとは子供の声とか入れたりしてます。洗い物してる音とか、生活音も。
ーー生活音を入れたというのもそうですけど、より山路さんの生活に近いところにこのアルバムはあるのかもしれないですね。そういう意味でも愛着や手応えは強いんじゃないですか?
山路:今の時点でできることは全部やったなという感じはします。人とあまり会えないですから、一緒に作っていくことがやっぱり難しかったので。もちろんメンバーと「ここどう思う?」とか、いろいろ話し合いましたけど、テーマ性みたいなところは自分で考えるしかないんで、自分の頭の中でできることはやったなという感じがしますね。だから次の制作は、他の人が言ってるようなこともやってみたいなって思います。ちょっと違う角度から音楽を見てみたいというか。去年、mabanuaさんに「Driver」のリミックスをしていただいたんですけど、そうやって他のアーティストさんと触れ合うことが全然ないままここまで来ちゃったので、いろいろ交流できたらなと。友達作りみたいなの、すごく苦手なんですけどね(笑)。
※写真は2020年10月30日のONLINE LIVE『Hold us together』の模様。
■新譜情報
the engy『On weekdays』
7月7日(水)リリース ¥3,300(税込)
<収録内容>
01 Love is Gravity
02 We Dance
03 Interlude1
04 Never know
05 Funny ghost
06 Driver
07 Thinking about you
08 Interlude2
09 Sleeping on the bedroom floor
10 Words on the paper
11 Crack
12 Walk away
13 Interlude3
14 Lay me down
15 朝になれば
■ライブ情報
the engy ONEMAN LIVE 『WelcomeBackエビバデ」
2021年7月24日(土)
会場:心斎橋JANUS
開場 / 開演:15:15 / 16:00
料金:前売り¥3,600(全自由・入場整理番号付・ドリンク別・税込)
受付:6月16日(水)10:00より一般先行発売開始
詳細はこちら:https://eplus.jp/theengy/
『OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL20>21』
開催日:7月31日(土)、8月1日(日)
会場:舞洲スポーツアイランド
※the engyは8月1日の出演
詳細はこちら:http://giga-osaka.com
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