Anlyの歌声が連れてきた一足早い夏 新曲「キャンセル待ちの恋」リリースも発表したツアーファイナルレポ

Anlyの歌声が連れてきた一足早い夏

 橙色の温かな光が包む舞台の上、ピンク色のワイドパンツが印象的なラフな衣装に身を包んだAnlyが歌声を発したその瞬間、生憎の雨に見舞われた恵比寿LIQUIDROOMが一瞬で初夏の晴天に変わった。

 昨年4月にリリースされたアルバム『Sweet Cruisin’』を携えたツアー『Anly “Sweet Cruisin’” Tour 2021』のファイナル公演が開催された7月4日。バンドメンバーに続いて舞台の上に登場したAnlyは、音源そのままの伸びやかでグルーヴィな歌声をフロアに響かせた。シッティング形式のライブだったが満員のオーディエンスはほぼ全員立ち上がり、そのほかにも立見席が設けられるほどの盛況ぶり。アルバムでもリード的な位置にある「Taking My Time」を歌うAnlyのしなやかな身振り手振りに客席からは自然と手拍子が湧き上がり、揺蕩うようなバンドサウンドも相まって一瞬にしてその場が心地よいリズムに満たされていく。

 Anlyはその抜群の歌唱力はもちろん、所作の一つひとつを駆使してフロアを曲ごとに全く違った色に染め上げていく。時にヒップホップ的なバックビートのリズムで身体を揺らし、時にチャーミングな動きでオーディエンスを盛り上げ、全身で楽曲を表現するその姿からはシンガーとしてのカリスマ性が感じられ、最早貫禄すら漂って見えるほどだ。

 もちろん、彼女と今回のツアーを回ってきたバンドのグルーヴも凄い。突如披露された未発表の新曲「58 to 246」では夜の海の水面を漂うカラフルな魚群を思わせるような優雅な演奏を見せ、Anlyの紡ぐ情熱的な恋の歌を優しく底上げしていた。ツアーの中で醸成されたバンドサウンドの中で伸び伸びと歌い、身体を揺らすAnlyは、まるで音楽の海を泳ぐ人魚のようだ。

 今回のライブの大きなハイライトといえば、やはりAnlyの友人であるシンガー・mahinaとGoのサプライズ登場だろう。アルバム収録曲「4:00 a.m. feat. mahina」を共作したmahinaは真っ白なワンピース姿で特徴的なウィスパーボイスをAnlyと交わし、夢の中のような可憐な世界を舞台の上に作り上げる。Anlyはこの曲について「お互い21歳の頃の、ふわふわした時間の中で作った曲」と語り、「やっと(mahinaと一緒に)歌えた」と心の底から嬉しそうに微笑んでいた。

 また、アンコールに登場した高校時代の同級生であるGoとは未発表の新曲「Don't Wanna Go Home」を披露。目まぐるしい転調と都会的なグルーヴ、「まだ家に帰りたくない」という男女の心情を吐露したような艶やかなボーカルの掛け合いが印象的な楽曲のエンディングでは、AnlyとGoによる怒涛のフェイク合戦が繰り広げられ、その熱量に客席から息を呑む音が聞こえてきそうなほどだった。

 ライブ後半では、よりAnlyの心象深くに入り込んでいくような等身大の曲たちを次々と披露。「愛情不足 feat. Rude-α」ではRude-αのラップパートもAnly自身が見事に歌いこなし、表現力の高さを見せつけた。

 「夏がやってきますよ! 私の季節だー!!!」というAnlyの元気な掛け声とともに、ライブはラストスパートへ。ファンの間でも人気の高い「SUMMER TIME SECRET」ではオーディエンスがそれぞれ手でハートマークを作って頭上に掲げる場面もあり、内省的になりがちな梅雨が明け、一足早い夏が訪れたかのような眩い空間がフロアに作り上げられた。「カラノココロ」で天に突き上げられたオーディエンスの無数の手から、シンガロングの代わりに響き渡る手拍子には夜が明ける瞬間のような喜びが満ち溢れ、Anlyの力強いロングトーンが花が咲くように冴え渡る。

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