2ndアルバム『Annihilation』インタビュー

AAAMYYY、未曾有の時代が促した価値観のアップデート 音楽の根底にある死生観や宗教観を聞く

「当たり前」という考えが全て変わった2020年

AAAMYYY - HOME [Official Music Video]

――2020年の5月にリリースされた「HOME」は、アコースティックギターを軸にしたバンドサウンドで、それまでの打ち込みのシンセサウンドとはかなり違う方向性の曲ですけれども。これはそうやってバンドで得た刺激や変化が反映された曲でしょうか?

AAAMYYY:そうですね。この曲はもともとSUUMOの新生活を応援する特別映像の主題歌として書き下ろしたんです。作り始めたのはコロナになる前のクリスマスぐらいだったんですけど、この時に初めて「アコギ入れたくなっちゃった」ってプロデューサーさんに言ったら、「いいですよ」って言ってくれたんで「じゃあ!」となって、MONO NO AWAREの成順に弾いてもらったギターありきで作った曲です。

――この曲はご自身のキャリアの中で、どういう位置付け、どういう曲になった実感がありますか?

AAAMYYY:いちばん歌を大事にしている曲かな、と思いました。そのCMは設定があって、3人の仲良しの女の子のうちのひとりが海外に留学することになって、片方の女の子はそれを知っていて、もうひとりの女の子はそれを知らなくてみんなで一緒に住みたい家を探していたみたいな設定があって。その設定からいろいろ想像を膨らませて、家族や大事な友達や、とにかく大事な人にちゃんと「ありがとう」とか「ただいま」とか「おかえり」と言ったらいいよねと思って。それがより伝わるようなメロディを作って、それが一番伝わりやすいのがアコースティック調の楽曲であったという。それがCMを制作されている方の要望ともリンクしたというか。

――『BODY』は自分の中にコンセプトや設定があって、自分の中で完結するプロダクトだったわけですよね。でも、「HOME」は、たとえばCMのために曲を作るようなオファーがあったとしても、それに応える形で自分らしさを発揮することができたという、そういう経験でもあったんじゃないかと思うんですが。

AAAMYYY:まさにそうですね。この「HOME」に関しては、歌心とか、歌謡的というものが芽生えたような作品になったんですけど。たとえば、同じぐらいの時期から、コマーシャルの曲を作ってくださいとか、こういうトラックを作ってもらえますかという話もあって。そういう中には「私じゃなくてもいいんじゃないか」っていう案件もあったりしたんですけれど、SUUMOさんの案件は私ありきで選んでくださったなって感じられて、それがモチベーションとなっていいものができたと思っています。

――アルバムには、社会的なことや政治的なこと、AAAMYYYさんが今の時代の変化に向き合って感じたことや考えていることが、音楽にも結びついている感じがしたんですね。そのあたりはどうでしょうか。

AAAMYYY:そうです。むしろ、それしかないというか。3月以降に作ったり録った曲に関しては、もう非常に詰まっている状態です。

――感じたことって、どういうものが大きかったですか?

AAAMYYY:ひとつのことに対して、その前後関係だったり、上下関係だったり、歴史があったりすることによって、一瞬にして悪者にも正義の人にもなれる。その危うさみたいなものをトータルでは感じてましたね。SNSを見ていても、いろんなことに対して表面的に叩くだけの人がいたりするけれど、本当の問題はそこにはなくって。その根底にある社会システムとか、人々の「これが正義だ」っていう考え方が原因なのに、そうすることによって逆に激化させちゃったり、悪化させちゃったりしているなって。それってほんとに複雑で難しいなって。

――いろんなミュージシャンの方に「去年どういうことにインスピレーションを受けましたか?」とか「社会を見てどういうことを感じましたか」っていう話を聞くと、みなさんおっしゃるのは「分断」というキーワードなんですね。考えていることがぶつかり合っている時代である。あとは「正しさ」というキーワード。正しいということが逆に抑圧に働いたりする。そういうことをすごく感じている。それが、自分の表現のモチーフになったっておっしゃる人が多かったんです。AAAMYYYさんも、そういう感覚ってあったりしましたか?

AAAMYYY:まったく同じ感覚を持っています。

――そういうことが曲を作る時のモチーフになっていた。

AAAMYYY:はい。その通りです。「不思議」とか「Fiction」はそういう曲です。

――いろんな人が、コロナ禍の2020年を経て価値観が変わったと話していますが、AAAMYYYさんとしてはどうでしょうか。

AAAMYYY:いちばん大きかったのは、自分の中にあった「これが当たり前」という考えが全部変わったことかなと思います。たとえば、それまでもいろんなことを楽しんでいたんですけれど、それは全然寝ていなかったり、自分の苦労も厭わない楽しさだったことに気付いたというか。それは自分に毒されていた感もあったかもしれない。これが普通だから、この忙しさに慣れていくように、これから身体を作っていかないといけないっていうモチベーションだったというか。でも、コロナでライブも行えないし空き時間ができて、それまで予定を詰め込むことで自分を保っていたのかなって気付いて。忙しくもあれるからヤバくもあれる、ヤバい音を出せるとか、そういう自信にもつながっていたので。一概には言えないんですけど、自分がなりたいヤバい像になるための努力なんて本末転倒だって気付いたというか。

――社会全般でも、メンタルヘルスに関しての問題がよりクローズアップされたり、セルフケアやセルフラブという言葉がキーワードになったり、社会の規範に無理して自分を合わせるよりも、自分自身が健全であることを基準にする考え方が前面に出てきている感じがするんですよね。AAAMYYYさん自身も、コロナのことが大きなきっかけになりつつも、それだけじゃなく価値観が大きく変わりつつある時代なんだっていう感覚もお持ちなんじゃないのかなと。

AAAMYYY:もちろん、そう思います。それを最初に思ったのは、おそらくカナダに留学していた時で。海外の考え方はわりとオープンだしリベラルだし、当時の私には新鮮で。すごく自分の性に合っているなって思って「海外最高!」ってなって、日本に帰ってきた時に、システムや人の考え方がすごく違うことに初めて気付いて。日本では身を粉にして働く美学とか、社会的体裁とか、そういう方が個々の個性やメンタルヘルスよりも大事だったわけで。鬱は甘えだとか、残業は当たり前とかだったり。でも、個性や人間性を大切にすることが至って普通という考え方が定着していたカナダにいた時の自分のほうがポジティブだし、クリエイティブなものがポンポン浮かぶような人間性を徐々に得ていった感覚があって。今はSNSなどでより新しい情報を得られるスピードが速くなっているとは思うけれど、根本的な概念を変えるとか、習慣を変えるのはほんとに難しいんだなって思いながら、コロナのニュースを見たりとかして、感じています。

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