向井太一のステージから感じられた確かな成長 『COLORLESS』ツアー東京公演レポート

向井太一『COLORLESS TOUR』東京公演レポ

 登場一発目をアカペラで歌った時の力強くも明るい表情や、「Colorless」の曲紹介で「この曲は自己愛について歌った曲です」と、オーディエンスに向けて言葉をまっすぐ伝える表情。ステージパフォーマーとしての成長の裏に確かな人としての成長を感じさせる100分のライブ。R&Bというジャンルは彼のバックグラウンドには確実にあるものの、もはやどんなシチュエーションで耳に入ってきても違和感のないある種の人なつこさを獲得した新しい曲たちは堂々とJ-POPとして浸透してゆくだろうし、J-POPのクオリティそのものを底上げするに違いない。

向井太一

 残念ながら大阪公演が延期になり、久しぶりの有観客公演が6月5日Zepp DiverCity(TOKYO)での東京公演となったが、冒頭に書いたようにすでに悔しさを吹っ切って、いま目の前にある状況を楽しみ尽くそうとする向井太一がいた。

 ライブは雑踏やライブハウスを思わせるSEに始まり、すっかり一つのバンドという生命体に育った印象のメンバーーー村田シゲ(Ba/□□□)、松江潤(Gt)、山下賢(Dr/MOP of HEAD、Alaska Jam)、George(Key、Machine/MOP of HEAD)、山本健太(Key)のセッションからスタート。そこへレモンイエローのジャケットを着こなした向井が登場。モードを消化できる資質はハリー・スタイルズを思わせるほどだ。そして冒頭に書いたように第一声は「Love is Life」のアカペラ。力強い声と自信に満ちた表情がオーディエンスを解放に誘う。ニューアルバム『COLORLESS』収録曲をシームレスに披露した中でも、「BABY CAKES」でのアブストラクトなリズムの構築をボーカルの符割りとフロウで牽引しているぐらい頼もしい。モータウンビートとアップデートされたサウンドの「FREER」では強い発声からファルセットまで縦横無尽に駆使し、新旧の楽曲の境界を感じさせない。

 最初のMCでは1年以上ぶりの有観客ワンマンライブに「ワンマンってこんな感じやったわ」と、新鮮な感情をフランクに表現。自然にフロアをリラックスさせる。「Sorry Not Sorry」ではラガマフィンスタイルを都会的なメロウネスに落とし込んだフロウをスムーズに聴かせ、ソファとトールランプがセットされた一角で、パーソナルスペースを演出した「Bed」はシンセベースの深い響きやドラムパッドなど、バンドの繊細なアレンジも見事にハマった。

向井太一

 曲ごとの色彩が明確なのに、ごく自然に流れができているのはむしろ1曲入魂で生身の人間がそこで生きているからなのだと、前半の時点で感じた。冗長なエンディングがないのはシンプルにいま、このバンドで届けたい曲が多いからだろう。洗練とキャッチーさを兼ね備えた楽曲を届けると同時に、一人の青年の成長物語としても捉えられる今回のセットリストの中でも、本人が長めの曲紹介をしたのが「HERO」。向井が兄について書いた曲で、R&Bやヒップホップを教えてくれた存在であり、故郷で家族を守ってくれている彼は自分にとってヒーローだと明言。今回のアルバムライブに即しているだけでなく、いま、容易に家族に会えない状況だったり、家族でなくても自分を支えてくれる人に想いを馳せた人も多かったことだろう。温かみのあるアコギ主体のアレンジで、さらにライブに没入できた後に現在の強さをゴスペルやマーチングのテイストのある新作からの「僕のままで」に繋いだことはこのセットリストの強い幹になったのではないか。

 ジャケットを脱いで再びグルーヴタイムといった感で「What You Want」など、現行R&Bの英語表現を日本語にスムーズに置換したボーカルを次々に披露。特に器楽的に声を駆使しつつ、そのことが感情に蓋をするような歌詞を持つ「悲しまない」を効果的に届ける。抑揚の振り幅がない分、むしろ迫るものがある印象だ。

向井太一

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる