imdkmのチャート一刀両断!
GRAPEVINE、AJICO......ベテランが放つ“瑞々しさと頼もしさ” ロックバンドが席巻したアルバムチャート
冒頭の「ねずみ浄土」からして、点を鋭く穿つような演奏と、その余白に漂うようなエレピの対比に息を呑む。これまたピンポイントでフランジャーやディレイといった空間系のエフェクトが加わって、時間感覚が狂うようなサイケデリック感を醸しているのがまた良い。「ねずみ浄土」だけではなくて、たとえば先行リリースされていた「Gifted」の変則的なドラムのパターンも、あるいはうねるようにドライブする「阿」のベースラインも、そうした緊張感をびしびしと発している。「josh」や「最期にして至上の時」でぶっきらぼうに挿入されるシンセやサンプルの機械的なビートの異物感が、かえってバンドの演奏が持つ味わいを強調しているのも面白い。その異物感に、前作収録の「すべてのありふれた光」でも、16ビートの演奏に脈絡のない2拍3連のタンバリンが突然乗っていて少し困惑したのを思い出した。言葉を組織化してまとまりを作るよりも、むしろ意味をおぼろげにつなぎつつ拡散させていくようなゆるやかな押韻も面白い。
20年の時を経て再始動したAJICOのEP『接続』は、そうした前置きに対して意外なほど軽やかに思える。4曲入りのEPというボリューム感もさることながら、それぞれの楽曲が3~4分台と比較的コンパクトに整えられていることも大きい。ディスコグラフィを並べて聴いてみると、ギターを主軸に置きつつもたとえばトリップ・ホップを思わせるような音響を展開していた2000年のころとはややアプローチが異なるとはいえ、意外なほどにすんなりと20年のブランクを埋めてしまうような連続性があるように思う。ガラッと今っぽくサウンドを変えてしまうのでも、「いまふたたびあのサウンドを」と決め込むのでもないバランスにもまた、「復活!」という変な気負いを感じさせない風格がある。これもまた、頼もしさ、だろうか。
■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com