宇野維正が出会った“特別”としか言いようがない曲ーーすべてが不明のアーティストPii「カキツバタ」の衝撃

 「カキツバタ」は初夏に青い花(そういえば、「はじめましてver.」のアニメーションでは青髪の女の子がフィーチャーされている)を咲かせる日本古来の植物。〈どんなに悲しい歌にも 終わりがある 時を待つカキツバタのように〉と、コロナ禍にある現在にも重なる歌詞の後にくるのは、〈幸せはくる 願いは叶う そう信じることが花言葉なんだと〉という「カキツバタ」の花言葉にまつわる歌詞だ。そこだけでも泣きそうになってくるのだが、「カキツバタ」の歌詞が本当にすごいのは、それに続いて〈父が言った 昔を想う〉というフレーズでサビのパートが締められるところだ。

 日本のポップスにおいて、あまり耳に覚えのない「父」という言葉。しかも、それをサビで強調するという大胆な詞作。さらに、曲の最後の大サビでは、そんな「父」を巡る歌詞が、「父」から「子」に、そしてさらに次の世代の「子」へと、「私」を媒介として過去と未来が繋がれて次のように展開していく。〈雨上がりに 陽が射す空に どんなに高い山でも登れるよと 誓う そう カキツバタのように 幸せがくる 足音がする どんなにすごいレースでも走れるよ!と 父に言った昔と 子に語る未来と 今をゆく私を思う〉。

 一体なんなんだ、このすごい曲は! このすごい歌詞は! これだけとんでもない曲をノスタルジックでありながら未来的でもある(そう、楽曲の音楽性が歌詞の内容とも完全に一致しているのだ)ラジオフレンドリーなポップスとしてさり気なくまとめあげていることに、大袈裟ではなく、心底震撼した。

Pii「カキツバタ」Music Video

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。
Twitter:https://twitter.com/uno_kore

■リリース情報
「カキツバタ」
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