ポカリスエットCM、『関ジャム』などでも話題 ROTH BART BARONの音楽が今求められる理由

 そして昨年、ロットがさらに大きな歩みを見せたのは10月にリリースした最新アルバム『極彩色の祝祭』においてだった。三船は当初から「祝祭」をテーマにした作品を作ろうと考えていたとのことで、ここでは躍動するサウンドが聴くほうの心までも高ぶらせてくれる。

 とはいっても、その祝祭や躍動の奥には、祈るような、願いを込めるような感覚……メッセージめいたものが強く感じられる。リード曲の「極彩 |I G L (S)」を聴いていると、三船が歌う〈君の物語を 絶やすな絶やすな〉というフレーズが自分の感情の底に沈殿していくかのように重なっていくのだ。

ROTH BART BARON - 極彩 | I G L (S) (Official Video)

 ちなみにこの曲は、今年1月に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の「売れっ子プロデューサーが選ぶ年間ベスト10」において、蔦谷好位置が第1位に選んでいる。その席で彼は「2020年の幕開けはコロナウイルスにより、たくさんの命や価値が奪われ、私たちの日常を大きく変えてしまいました。そんな中、この曲は全ての祝われなかった命へのレクイエムであり、何があろうと圧倒的に生を肯定する応援歌に感じました。悲しみや不条理という現実と向き合いながら、全ての命に心の底から祝福を送っている三船雅也。これこそ音楽に出来る可能性であり、音楽家のあるべき姿だと思います」と、ロットの音楽を絶賛した。

 そう、この歌に限らず、近年のロットの歌にはゴスペル、もしくは讃美歌のような、唱和によって生まれる高揚感がいっそう反映されてきている(その「祈り」のような感覚は、このところのポップミュージックの世界的な傾向である、とも思う)。声と声、音と音とが生み出す高揚、興奮。シリアスな現実を生きる人間にとって、それは癒しであり、また、元気、勇気をもたらしてくれるものだ。

 そう思うと、昨年、コロナ禍に見舞われて以降、ロットの音楽への注目がさらに集まっていることには、ちょっと理解できる節がある。翻れば2000年代半ば頃のロットは、森は生きている(後述する岡田拓郎が在籍)、吉田ヨウヘイgroupといった海外のインディロックの流れを日本の土壌の上で発展させるバンドに近い存在として捉えられていて、彼らのサウンドは聴く者の精神を自由にしてくれるような世界を誇っていた。そこにストレンジ、あるいはサイケデリックな感覚が潜んでいることも照らせば、こうした非日常感を現在のシーンで独自の流儀で展開しているのはceroやTempalay、あるいはGEZAN、ゆうらん船あたりか。その中でも、とりわけロットの音楽には、三船の声質と壮大なサウンドによってヒーリング的な心地良さを覚える瞬間も多い。あまりに辛い現実や苦しい状況になると、人はどこかでそれを解放したがるもので、それは音楽においても言えることだ。ロットが描く歌と音の世界は、ひとときの心の安らぎと生きるためのエネルギーをもたらしてくれる。そんな気がするのである。

 今のロットはライブの場でもそうしたエネルギーを感じさせてくれるバンドに成長している。このたびリリースが決まった初の映像作品集は、昨年暮れに行われためぐろパーシモンホールでの公演の模様を収めたもので、『けものたちの名前』の世界が表現されたライブだ。サポートミュージシャンたちはソロアーティストとして活躍する岡田拓郎(Gt)をはじめとした精鋭揃い。その演奏はもちろん、ステージに映し出される映像も秀逸で、ロット独自の世界に深入りできる夜だった。なお三船はこのコンサートが行われた目黒区の生まれで、そこも彼にとって感慨深い日になったはずである。

ひかりの螺旋 - ROTH BART BARON『けものたちの名前』Tour Final Live at めぐろパーシモン大ホール 2020.12.27

 また、詳しくは触れなかったが、ここまで見てもらってもわかるように、MVをはじめとしたこのバンドの映像は完成度が高く、しかも美しいものが多い。そこは三船自身が過去に映画監督になりたいと思ったことがあるのも関係しているのだろう。未見の方は、ほかの映像もぜひチェックしてみてほしい。

 さて、今回のポカリのCMおよびA_oの「BLUE SOULS」によって、ロットがどんなふうに脚光を浴びていくのか? 今後はそこも見ていきたいところである。

 実はロットはここまで、まさにDIYな活動の仕方を貫いてきたバンドである。たとえばオンライン上に「PALACE」というバンドとファンが意見を交わすことのできるコミュニティを作ったり、そこから派生する形でクラウドファンディングを使いながらプラネタリウムやキャンプ場でライブを行ったり、あるいはレコーディング現場にファンを招いて、その人の意見を取り入れたり、といった具合だ。そしてこちらとしてはそんな三船の姿に、誠実に音楽をやっている事実を感じてきたものである。ロットの音楽にあるぬくもり、あたたかみ、あるいは近さ、心がほだされるような感覚は、そうした姿勢とも関係していると思う。

 それだけに、今回のようなメジャーなCMにロットが関わったことには、状況の変化を感じる。ただ、それもあくまで三船の才能が求められたからの出来事だろう。また、この記事の最初に書いた「多くの人の耳に触れる価値のある音楽であると、ずっと思っていた」という僕個人の思いもまた、本当である。

 今、あらためて思う。ROTH BART BARONの音楽は、多くの人々の心を救うはずだ、と。今回のA_oがその幸せなきっかけをたくさん生めばいいな、と思う。

■青木優(あおきゆう)
1966年、島根県生まれ。1994年、持ち込みをきっかけに音楽ライター業を開始。現在「テレビブロス」「音楽と人」「WHAT’s IN?」「MARQUEE」「オリジナル・コンフィデンス」「ナタリー」などで執筆。

ROTH BART BARON 公式サイト

 

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