ポカリスエットCM、『関ジャム』などでも話題 ROTH BART BARONの音楽が今求められる理由

ROTH BART BARONが今求められる理由

 この4月からOAされているポカリスエットのCM「でも君が見えた」篇。気鋭の女優・中島セナが出演し、映像の素晴らしい仕上がりもあって、初公開された時から大きな話題となっていた。

ポカリスエットCM|「でも君が見えた」篇 60秒

 そして当初から気になっていたのは「BLUE SOULS」という曲名のみが公表されていた、バックで流れている楽曲のことだった。「A_o」……エイオー、と読むのか? 2人で構成されているこの謎のプロジェクトのシンガーがアイナ・ジ・エンドであることは、多くの人が気づいたと思う。ただ、アコースティックギターの響きと清涼感のあるコーラスが印象深いこの楽曲を誰が作っていて、誰が演奏しているのかはわからないままだった。

 そしてその事実は、4月20日の夜の発表で明かされた。このプロジェクトを形作っているもうひとりはROTH BART BARON。すなわち、三船雅也である。そのことを知り、すべて納得がいった。心のすき間を流れていくようなあのナチュラルなサウンドは、たしかに三船がクリエイトするものに間違いない、と。

A_o - BLUE SOULS (Music Video)

 そして思った。これをいい機会として、彼の音楽には今後たくさんのスポットが当たるだろうと。その流れが起こるのは必然だと思うし、そして僕自身はどこかでそうなってほしいものだと考えていたのだ。なぜなら、出てきた当時からこのバンドのライブを体験し、動向を気にしてきた者としては、今のROTH BART BARONはクリエイティビティのピークに向かっているところだと、これは多くの人の耳に触れる価値のある音楽であると、ずっと思っていたからである。

 ROTH BART BARON(以下ロット)は2008年、三船と中原鉄也の2人で結成されたバンドである。ドラムスを担当していた中原は昨年夏、お互いにとって「前向きな選択」をした結果、バンドを脱退することになり、現在のメンバーは三船ひとりとなっている。

 アコースティックギターを弾くことから音楽を始めたという三船と、以前はテニスの選手同士の関係だった中原。彼らは自主制作での活動を経たあと、2014年に最初のアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』をリリースする。そのサウンドは、一部の音楽ファンの間で話題となった。僕自身もその時期にロットの世界に引き寄せられたひとりである。三船の美しい歌声と叙情性あふれるメロディ。そして練り込まれた音の世界! 音楽的なセンスが高いバンドであることは明白だった。

ROTH BART BARON 氷河期#2 - Monster -

 この頃からよく語られていたのは、ロットが当時のアメリカのインディロックの感覚に共振するものを発していることだった。とくに比較されるのが多かったのはBon Iver、それにFleet Foxes。現代のインディフォークの中で、とりわけ深みのある音を奏でてきたバンドたちである。実際に三船たちがこうした音楽を意識し、指向していた側面は強いだろう。

 その初期段階からロットは自分たちのサウンドをどう録音し、どう響かせるかについて意識的だった。そのため彼らはアルバム作りにおいて幾度かの海外録音を敢行している。その当時、仕事相手として組んだエンジニアのジョナサン・ロウは、現代のアメリカーナサウンドを作り出してきた才能である(なお、近年のジョナサンはインディフォークという枠を超える活躍ぶりを見せており、最近ではテイラー・スウィフトの『フォークロア』がグラミーの年間最優秀アルバム賞を獲得した際に、同じく彼女をサポートしたThe Nationalのメンバーとともに受賞式に参加していた)。

 ただ、こうした情報だけ聞くと、ロットのことをただ洋楽に傾倒するマニアックなバンドだと思うかもしれない。もうひとつ、それと同じくらい重要だと強調しておきたいのは、ロットの独自性には、日本語で歌を唄い、そこで自分たち流の情感や文学性を追求してきたことにもある点だ。

ROTH BART BARON - bIg HOPe -

 歌のいくつかには、現実と非現実……リアルの中に別の世界が現れるかのような感覚がある。だから彼らの音楽には、夢を見ているような、あるいは寓話の中に迷い込んだような、不思議な感覚が息づいている。

 こうしてロットは音楽的な試行錯誤をくり返し、アルバムを出すたびに新たな境地に進んできた。ことに近年の活動の充実ぶりには、その波動がかなり大きなものになっている事実を感じるばかりだ。

 まずは一昨年、2019年11月に出した、通算で4枚目のアルバム『けものたちの名前』である。ロットはここで美しく繊細な歌と音で<けものたち>の物語を描きながら、今に生きる人間たちのことを照射しているように思う。

 僕がとりわけ感動したのは「けもののなまえ」である。アルバムには4人の女性シンガーが参加していて、そのうちのひとりであるHANAはこの当時まだ13歳。この歌での、本当に無垢な彼女の歌声と三船のファルセットのデュエットはあまりにきれいで、聴くたびに心が洗われる。個人的には2019年のベストソングだ。

ROTH BART BARON - けもののなまえ - (Official Music Video)

 ライブのクライマックスで演奏されることが多く、静かに、深く心の奥にしみてくる名曲である。僕は幸運にもHANAがゲストで出演したライブを何度か見れており、この純粋な歌の世界に浸ると、思わず涙してしまうほどだ。

 このアルバム『けものたちの名前』は、ロットというバンドへの高い評価を集める役割を果たした。たとえば同作はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が主催する『APPLE VINEGAR -Music Award-2020』の大賞を受賞している(ちなみにアジカンは2019年のツアーの東京公演のゲストにROTH BART BARONを招いている)。

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