松尾潔がメロウな視点から語り尽くす、向井太一の魅力 最新作『COLORLESS』で楽しむ成熟
90’s R&Bの最新形から歌謡曲っぽさを感じる楽曲まで
一方で「僕のままで」を1曲目に持ってきたのは“R&Bだけの向井太一ではない”という宣言にも感じられます。『COLORLESS』は、向井太一さんと数々のプロデューサー陣とのコラボレーション作品という様相も呈している。だからこそ、百田留衣さんの手がけた「僕のままで」と「Colorless」、2曲のストリングス使いや強いメッセージでアルバム全体の基調を構成しているのはとても効果的です。
デビュー作から太一さんの楽曲を手がけているCELSIOR COUPEさんの「Love Is Life」「Get Loud」は、どちらもすごくキャッチー。「Love Is Life」「Get Loud」それぞれビデオも作っていて、歌い手が描きたい心象風景がわかっているトラックメイカーが一緒に作った感じ、まさに当て書きという言葉がよく似合います。いい意味で“変わらない向井太一”をアルバムの中で示す役割を果たしていて、向井太一さんのアルバムを手にする以上こういうサウンドを聴きたい、という需要にもきっちり応える2曲でしょう。
太一さんが90年代の日本のR&Bシーンに羨望の眼差しを向けてくれていることは知っていましたが、「BABY CAKES」には僕の古い仲間であるT.Kura(Giant Swing)くんとmichicoちゃんを迎えています。Kuraくんもmichicoちゃんも楽しそうに作っているし、何より溢れ出す“Giant Swing愛”を必死にこらえているような太一さんのボーカルが強い印象を残しますね。太一さんの原体験に90年代の日本のR&Bがあるのであれば、T.Kuraくんは絶対不可欠な存在です。彼が有名になったのは、安室奈美恵さん、三浦大知さん、EXILEの仕事ですが、この曲にはKuraくんの仕事でいえば LL BROTHERSの頃まで引き戻してくれるような感覚がありました。でも単に振り返るのではなく今のかっこよさで、ジャンルとして定着している90’s R&Bを2021年にやっている。90’s R&Bの一番新しいものが「BABY CAKES」というのかな。ただ懐かしさに溺れるだけではない、今の曲としての目配りがあるのはプロの仕事です。
「Don’t Lie」もよかった。太一さんの喉が心地よく感じるフレーズを歌ったらこういうメロディになりました、というくらい肩の力が抜けていて、少し歌謡曲っぽさも感じます。太一さんの声質には優しい成分とハスキーな成分が含まれていて発声に癖がある。その癖が絶妙な味を保つ特徴的な歌声ですが、この曲では地声とファルセットの境界線がないようなシームレスなボーカルを聴くことができて、歌唱技術的にも格段に向上されていることが伺えました。
また、表現に隙はないけれど音楽としては隙がたくさんある。聴き手が感情を置くだけのスペースをちゃんと用意してくれているんです。懐の深い、余裕みたいなものを今回のアルバム全体に感じましたし、中でも「Don’t Lie」には顕著に感じましたね。
あと「Don’t Lie」には際立った色気がある。“誰かを想う”という心情がある程度の時間の経過を示すような言葉と共に綴られているのも興味深いです。〈お揃いの歯ブラシ〉とか〈指に光るリング〉とか、日常を感じさせるような言葉が使われていて、歌謡曲っぽさみたいなところはここからきているのかもしれないですね。コロナ禍以降、趣味も価値観も異なる人々が同じ生活様式を強いられました。多くの人が同じ時間の過ごし方を経験してきたからこそ辿りついた表現なのかなと思うし、だからこそこれだけの説得力を持ちえたのかもしれません。
アルバム後半には僕の大好きなメロウチューンがたくさん並んでいますが、向井太一という存在自体がメロウになってきているとも言える。豊かさ、成熟さ、豊潤さ、ワインでいうと、抜栓してから香りが開くまで待たなくてもいい“飲み頃”とでもいいますか。そういう意味では向井太一ワールドを今まで知らなかった人もここから入っていくにふさわしいかもしれませんね。身をゆだねるだけでまずは正しい味わい方として成立するし、ご興味があれば産地を探っていく、以前の作品を聴いていくという楽しみ方をしていけばいいのではないでしょうか。
“音楽好きの中でのスター”よりも広く受け入れられる存在へ
『COLORLESS』は、初期から聴いてきたリスナーからすれば「だから昔から好きって言ってるじゃん」と自慢できる作品です。期待を寄せてきた人にとってこんなに見事な成長ぶりが見られるのは、単純に音楽体験として楽しいですし、数年前の自分の見立ての答え合わせに丸がつくような楽しさもある。アーティストは色々な形でファンにハピネスやラブを届けることができると思いますが、レベルアップした作品を届けてくれるということは、ファンにとってどれだけの喜びと幸せを与えてくれるのかということも改めて感じました。僕もとても嬉しかったです。
あと、『関ジャム』で共演したときに思ったのですが、向井太一さんってとてもお茶の間に向いているキャラクターだなと。コメントもしっかりしているし、アカペラでの1フレーズをアドリブで歌うなど機転も利いて素晴らしいと思いました。“音楽好きの中でのスター”ではなく、もっと広くに受け入れられるべき存在だと思っています。m-floのlovesシリーズへの客演、香取慎吾さんへの楽曲提供など個人以外の活動も増えていますし、『COLORLESS』というアルバムを皆さんがどれくらいの時間をかけてジャッジされるのかが今から楽しみです。
■松尾潔
1968(昭和43)年、福岡市生れ。早稲田大学卒業。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。SPEED、MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。その後、プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、東方神起、三代目J SOUL BROTHERS、JUJU等を成功に導く。これまで提供した楽曲の累計セールス枚数は3000万枚を超す。日本レコード大賞「大賞」(EXILE「Ti Amo」)など受賞歴多数。
今年2月、初の書き下ろし長編小説『永遠の仮眠』(新潮社刊)を上梓した。
■向井太一 リリース情報
4th ALBUM『COLORLESS』
4月21日(水)発売
初回生産限定盤【CD+BD】¥4,200+税 (スリーブケース仕様)
通常盤【CD】¥3,000+税
「Colorless」先行配信中
https://tf.lnk.to/COLORLESSPR
<収録内容>
【BD】※初回生産限定盤のみ
01. BABY CAKES(Special Live Video)
02. 悲しまない(Special Live Video)
03. Don’t Lie(Special Live Video)
04. Sorry Not Sorry(Special Live Video)
05. Ups & Downs(Special Live Video)
06. Documentary of Special Live Vide)
【CD】
01. 僕のままで(Produced by 百田留衣)
02. Love Is Life(Produced by CELSIOR COUPE)
03. Ups & Downs feat.mabanua(Produced by mabanua)
04. BABY CAKES(Produced by T.Kura for Giant Swing Productions)
05. Comin’ up(Produced by CELSIOR COUPE)
06. 悲しまない(Produced by omshy)
07. Get Loud (Produced by CELSIOR COUPE)※EDWIN「ジャージーズ」CMソング
08. Don’t Lie(Produced by Azad Naficy & William Leon)
09. What You Want(Produced by SONPUB, ZUKIE)
10. Sorry Not Sorry(Produced by Shingo.S)
11. Bed(Produced by grooveman Spot)
12. Colorless(Produced by 百田留衣)
Bonus Track. We Are(Produced by CELSIOR COUPE)※CD ONLY
<店舗別先着予約・購入特典>
・TOWER RECORDS/TOWER RECORDS ONLINE(※一部店舗を除く):B3ポスター(TOWER RECORDSver.)
・HMV/HMV&BOOKS online(※一部店舗を除く)B3ポスター(HMV ver.)
・TSUTAYA RECORDS/TSUTAYAオンラインショッピング(※一部店舗除く):B3ポスター(TSUTAYA ver.)
・Amazon.co.jp:メガジャケ
・楽天ブックス:A4クリアファイル
・CD予約・購入はこちら(TOY’S STORE)
■ツアー情報
『COLORLESS TOUR 2021』
2021年6月3日(木)大阪府・なんばHatch
開場18:00/開演 9:00
2021年6月5日(土)東京都・Zepp DiverCity
開場17:00/開演18:00
<料金>
通常¥6,000 自由席(税込/ドリンク代別)
Tシャツ付¥8,800 自由席(税込/ドリンク代別)