声優 石川由依、キャラの成長と共に変化する表現 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などから考察
今回の主演女優賞受賞時のスピーチにおいて、彼女は「今回の受賞は、昨年公開された『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の評価が大きく影響していると思う」と口にしていた。
2018年に放映されたテレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズの完全新作にあたる劇場版は、公開と同時に大きな反響を呼び、コロナ禍にあったなかでも大ヒットを記録した。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、戦場で戦うことしか知らず、感情も言葉もうまく伝えることができなかったヴァイオレット・エヴァーガーデンが、郵便社での代筆業を通じ、多くの人と対話をしていくことで成長していくーー。
本作を知る方ならご存知のように、ヒロインのヴァイオレットは感情の起伏はおろか、そもそも他人の感情や機微についていくことができず、物語序盤において登場人物らは彼女とのコミュニケーションに困ってしまう場面が多数出てくる。先ほど「無口キャラ」「クールキャラ」と書いたが、ヴァイオレットはそういった部分とは違った難しさ、そもそも感情を読み取るということを不得手にしているという点が大元にあるキャラクターなのだ。
石川由依「ヴァイオレットはいつも難しいと思いながら演技してきました。もともと感情の起伏に乏しいキャラクターなので、表現の幅も狭くなるんです。そこから徐々に徐々に感情を出すようになってきましたが、成長してからもヴァイオレットらしさは残したいと石立監督から伺っていたので、限られた幅の中でいかに感情を表現するか、とても悩みました。単純に抑揚をつけるだけでは成り立たない、そういう難しさのあるキャラクターです」
(劇場版『ヴァイオレット・エヴァーガーデン公式パンフレットより』)
ヴァイオレットの成長、それは感情を覚え、自分でその感情を露わにすることである。ぎこちない手つきで様々な人と会話をしていく彼女は、自身の感情を徐々にうまく表現できるようになっていく。
冷淡にも聞こえる会話のトーンを主にしつつ、一つひとつのアクセントや語気の強弱、あるいは他人の表情を見て落ち着いたトーンになったりなど、話数を重ねるごとに、少しずつバリエーションが広がっていく。特に彼女の上官であるギルベルト・ブーゲンビリアの話題に触れたときのヴァイオレットの感情表現は、テレビアニメ序盤と劇場版とでこうも違いが出るかと思ったほどだ。
ストーリーと共にして変わっていくヴァイオレットを、わずかな匙加減で象る、そうして石川由依はヴァイオレットを演じきってみせたのだ。
ちなみに、この高い演技力を培うために、彼女は2015年ごろから朗読劇への出演を続け、2020年1月から2月にかけては、『石川由依 UTA-KATA Vol.1 〜夜明けの吟遊詩人〜』と名付けたソロ朗読劇ツアーを開催。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の原作者である暁佳奈が台本を執筆し、作曲家・伊藤真澄による伴奏によって彩られたこの公演は、歌唱と朗読によって成り立ったプロジェクトだ。俳優や表現者として、ある種ストイックなまでにこなしていこうとする彼女に、職人としての声優の姿を見てしまうのは、僕だけだろうか。
■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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