ビリー・アイリッシュと家族が見つめる“少しぼやけた世界” 成長映したドキュメンタリーを観て 

ビリー・アイリッシュドキュメンタリーを観て

一人の若者が家族に支えられながらポップスターへと変わっていく瞬間

 そんなビリーを失意の底から救ったのは意外な人物だった。彼女にとって最愛のアーティストであり、彼女と同様に若くして絶大な成功を収めたジャスティン・ビーバーである。ビリーが落ち込んでいたタイミングで、彼が参加した「bad guy」のリミックスが到着し、結果その音源が彼女を励ます最高の治療薬となったのである。そして、コーチェラフェスのアーティストエリアにて遂に直接の対面を果たした2人。様々な感情が押し寄せ泣き続けるビリーを、ジャスティンは優しく受け止めていた。帰宅中の車内で、その時のことを振り返りながら感動している彼女に対して、フィニアスは「彼(ジャスティン)が感じた気持ちはお前にも分かるだろ」と話す。ジャスティンからのメッセージを受け取ったビリーは、明らかにこれまでと意識が変わっていったように見えた。

ビリー・アイリッシュ
ビリー・アイリッシュ
ビリー・アイリッシュ
ビリー・アイリッシュ
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 やがて、ビリーは恋人と決別し、アルバムツアーで足を痛めた際にもステージを続けファンと向き合い、その後もエクササイズを継続しながら戦う道を選ぶ。ツアー中に実施された「No Time To Die」の制作においても、思うように声が出ない状況に苦しみながら、最終的にはライブ後に録音したボーカルテイクで楽曲を完成させている。勿論、本人にとって納得のいかない出来事があり、それに対して家族に文句を言う場面もあるが、それでもその先へと前進していく姿を様々な映像から感じ取れることができる。そして、遂に迎えた2020年のグラミー賞では、主要4部門を含む多くの賞を授賞。ジャスティンからもお祝いのメッセージが届けられ、家族全員で大喜びしながら本作はクライマックスへと向かっていく。

 コーチェラフェスの頃には、「スクリーンに注目が集まるだろうから、自分の姿が見られなくて嬉しい」と語っていたビリーだが、本作の最後を飾るパフォーマンス映像では、ファンの前に立って堂々とした歌声を披露している。そして、エンドロールで流れるのは、これまでにないほど未来へのポジティブな期待で溢れた楽曲「my future」だ。この時間の中で、ビリーは間違いなく大きく変化し、成長した。それは家族にとっても同様であり、だからこそ乗り越えることが出来たのだろう。

 2時間20分のも及ぶ膨大な映像の数々が浮かび上がらせているのは、ある音楽好きの家族に生まれたビリー・アイリッシュが直面する激動と混乱の日々、そしてそれを家族全員で乗り越え、ポジティブな未来へと向かっていく物語である。

ビリー・アイリッシュ

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
Twitter : @neu_mura

ビリー・アイリッシュ
■作品情報
『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』
Apple TV+にて配信中
視聴はこちら

監督:R・J・カトラー
出演:ビリー・アイリッシュ、フィニアス・オコネル、マギー・ベアード、パトリック・オコネル

ビリー・アイリッシュ日本公式サイト

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