sumika、喪失から生み出した“最高傑作” 現在に至るまでの葛藤と創作を振り返る

sumika、喪失から生み出した最高傑作

やむなく中止となった『Daily’s Lamp』ツアーへの思い

小川貴之

ーーこのアルバムタイトルを象徴する曲を1曲ずつ挙げていただけますか。

荒井:難しいな……。全てが絶妙なバランスで成り立ってるし、全部大事な曲なんですけど、あえて挙げるなら、健太が「Lamp」を持ってきたときに、「このアルバムの幕開けを飾りたい。ある種、道標にしたい」という話をしていて。それは納得がいくというか、すっと入ってきて。ある意味での象徴というか、道案内役のポジションになってくれた曲だなと思いますね。

ーー「Lamp」というのは、延期の末に無観客の配信ライブに振り替え(2月9日に開催)になってしまったアリーナツアーのタイトルにも入ってたワードですね。

片岡:そうですね。『Daily’s  Lamp』というツアーのことを、忘れたくないなという気持ちがあって。2020年3月末から始まる予定だったツアーは、いわゆるリハーサルの最終行程まで進んでいたんです。だから、僕らにはランプがきちんと灯っていた状態で、あとは全国各地に灯していくだけっていうタイミングでなくなっちゃった。ちゃんと僕らの中に灯っていたものを、曲を通して、伝えていかないと、『Daily’s Lamp』が浮かばれないし、配信という形ではありますけど、『Daily’s  Lamp』をちゃんとやった上で2021年は進めていくべきだろうなって思っていて。ある種の、去年から今年にかけての宿命みたいなものを背負いながら。ただそれも、重いものを背負わされているわけではなくて、やっぱり、これが好きだよな、こういう気持ちで音楽をやりたいよなっていう、ポジティブな気持ちで作ったんですね。曲調もそうですし、難しい言葉も使ってない。年齢も性別も問わずに聴ける歌であるべきだなっていう気持ちで作りました。

ーー「HEY!」って声を上げながらアイリッシュダンスを踊りたくなるような曲になってます。

片岡:元々、一人でアイリッシュダンスを踊ってる人の動画を見たところから着想を得てて。アイリッシュが感覚的に好きなんですよね。それを無理することなく、自分の血に従って作った曲です。

小川:これはほんと楽しい曲です。知らない人と腕を組んで酒飲みたいなって。

黒田:めっちゃわかる。

小川:一聴しただけで楽しさが伝わる。僕もそういう楽しいピアノを弾きたいなって思って。そこだけに集中しましたね。楽しくやりたいって。

黒田:トリコロールさん(3人組のケルト/アイルランド音楽バンド)と合わせた時に、ガッツポーズが出ましたね。これだ! って。お酒が飲みたいって。

片岡:あはははは。アイリッシュパブに行きたくなる。エンジニアさんも言ってた。「これはビールが飲みたいね」って。これから先のライブでも生きてくる曲だと思います。

黒田隼之介

ーー(笑)。続いて、黒田さんにお願いします。

黒田:僕も「Lamp」かなと思っていたんですけど、「わすれもの」はおがりん(小川)がリードボーカルをやっていて。他のバンドじゃなかなかできないだろうなっていうのもあるし、sumikaの中で大きな武器なので、アルバムにとっても、バンドにとっても、大事な曲だなって思ってます。

小川:自分がバンドにとって何者なのか? って考えた時に、歌もちゃんと歌いたいっていう答えが出たんですよね。それで僕からメンバーに「歌いたいんですけど、作ってもらえませんか」っていうお願いをして。

ーー小川さんボーカル曲は、小川さんが作曲して、片岡さんが作詞した「enn」に続き2曲目になりますね。

片岡:素晴らしい提案だなと思いました。小川くんのボーカルをひとつの楽器として信頼しているので、僕としては久しぶりにエレキギター弾けて嬉しいな、くらいのフラットな気持ちでした(笑)。ありがたい話でタイアップが続いていて、スケジュールが立て込んでいる中で、2020年、1回止まらなかったら、何がやりたいか、何ができるかっていうことを改めて考えられなかったと思うんですね。そういった意味では、小川くんが自分で考えた中で、sumikaでメインボーカルをやりたいっていう気持ちがあったことが、僕はメンバーとして純粋に嬉しかったです。

ーー黒田さんは、どんな曲を作ろうと思っていましたか。

黒田:大事な役割ですし、しょうもない曲になったらどうしようっていう不安はめちゃくちゃあって(笑)。でも、おがりんが歌ってくれるっていうのがわかった上で制作に入ったら、ふとした時に、おがりんの声でサビのメロディがパッと思いついて。驚くくらい、すんなり、自然に作れました。

片岡:黒田くんが作曲して、僕が歌詞を書いて、小川くんが歌を歌うのは今回が初めてだったんですけど、そういう時はあまり悩まないんですよ。比較対象がないから、なんでもありだなっていう気持ちになれる。だから、僕も歌詞を書くのがすごくい早かったです。自分でこのテーマにして、1時間半くらいで全部書きましたね。

ーーそのテーマというのは?

片岡:友情です。小川くんは友達思いなんですよ。みんな、人間関係を大事にしていると思うんですけど、ふとした時に出てくる話が、友達や家族、人のことを大事にしているなっていうのが一番最初にポンと出てきた。その直感に従って書くべきだなって。

小川:本当にあの、嬉しかったです。じゅんちゃんがすごくいい曲を書いてくれたし、片岡さんから「こういうテーマで歌詞を書こうと思うんだ」っていう連絡を電話でもらった時も、心にすっと入ってきた。うまく歌おうとかじゃなくて、あるがままに歌えばきっと伝わるっていう思いのままレコーディングできた。僕にとってのギフトのような曲になりましたね。

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