HOWL BE QUIETのラブソングはなぜ切ないのか 竹縄航太が紡ぐ言葉を軸に考察
“切ないラブソング”という自らの特徴をさらに突き詰めた「ベストフレンド」。ここからはHOWL BE QUIETの代表的なラブソングを紹介しながら、その魅力を改めて検証してみたい。
まずは2016年にリリースされたシングル曲「サネカズラ」。〈最後の夜になったね〉から始まるこの曲は、恋人たちの別れの夜を描いたバラード。一緒に暮らしていた部屋を出て行き、最後に「幸せになってね」と告げるこの曲は、竹縄の実体験に基づいているという。決してきれいな別れではなく、後悔や憤りなども表現したこの曲はまちがいなく、HOWL BE QUIETを代表する1曲だ。
また、2010年代の半ばにバラード曲をシングルにしたという事実も、このバンドのスタンスを表わしている。当時は4つ打ちのダンスビートが主流で、“フェスで盛り上げるための楽曲”が必須だった。その状況のなかで切ないラブバラードを提示したのは、“このバンドの最大の武器は竹縄の歌”という明確な意思があったからだと思う。
アルバム『Mr.HOLIC』に収められた「208」も、切なさをたっぷり味わえるナンバーだ。「208」とは、主人公が住んでいる部屋の番号。恋人との別れを受け止めきれないまま、〈合鍵は左端 上から二つ/208のポストに返してね〉と伝える〈僕〉を描いたこの曲は、まるで映画のワンシーンのようなリアリティを備えている。この曲もおそらく、竹縄の実体験がベースになっているのだろう。
その他、クリスマスの光景のなか、「本当にごめんね」が口癖だった恋人のことを思い出す「Merry」、〈離れないで 僕から/君がいなきゃ腐ってしまうよ〉というラインが胸を打つピアノバラード「GOOD BYE」も。切ない失恋曲だけでプレイリストが作れそうだが、それは彼らが一貫して、リスナーの感情を揺さぶるラブソングを追求してきた証左だと言っていい。
これまでのラブソングに比べて「ベストフレンド」は、具体的な描写を抑えることで、より幅広い層のリスナーに訴求する楽曲に仕上がっている。それはつまり、ポップスとしての精度が上がったということだ。昨年4月のインタビュー(参照:「ラブフェチ」がTikTokで話題 HOWL BE QUIET 竹縄航太に聞く心境とこれからの曲づくり「恋愛は大きなファクター」)で竹縄は、「「ラブフェチ」が代表曲ではダメなんです。次に出す新曲が代表曲になると思うので、それまで楽しみにしていてください」と語っていた。それが「ベストフレンド」であることは、言うまでもないだろう。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■リリース情報
デジタルシングル「ベストフレンド」
配信はこちら