BALLISTIK BOYZ「Animal」とSexy Zone「RIGHT NEXT TO YOU」、ファンベース超えて届いた理由 サウンドを徹底解説
UKガラージとディープハウスを一曲の中に同居させてしまったSexy Zone
一方で、Sexy Zoneの「RIGHT NEXT TO YOU」は、海外のダンスミュージックシーンで注目を集めているUKガラージ(※様々な表記が存在するが、本稿では「UKガラージ」で統一)とディープハウスの両方を見事に良質なポップスとして一曲の中に落とし込んでおり、音楽ファンに大きな衝撃を与えた。
UKガラージとディープハウスはそれぞれダンスミュージックを細分化するサブジャンルであり、非常に簡潔にまとめると前者は「キックのタイミングをずらした、1・3拍目が強調されて聴こえるサウンド」、後者は「液体のような質感の音色と、派手な音を抑えた落ち着いたサウンド」という特徴がある。
両方とも、現在のJ-POPのヒット曲では使われることの少ないジャンルだが、最近ではUKガラージについてはAJ Tracey「Ladbroke Grove」(2019年)といったヒット曲の登場やCHUNG HA「Roller Coaster」(2018年)などK-POPにおいて活発に取り入れられることで注目を集め、ディープハウスに関してはジョエル・コリー x MNEK「Head & Heart」(2020年)といった大ヒット曲が誕生し、現在のダンスミュージックのメインストリームとして人気を博している。だが、「RIGHT NEXT TO YOU」はUKガラージで始まり、サビでディープハウスへ切り替わる構造となっており、なんとこの2ジャンルが一曲の中に落とし込まれてしまっている。それも全く違和感を感じさせないほど見事に繋がっているのである。
あくまで個人的な意見だが、UKガラージの魅力は一般的なダンスミュージックとは異なるビート感による独特な浮遊感であり、一方でディープハウスの魅力は沈み込むような音色と反復するメロディによる陶酔感や中毒性を生み出す部分にあると考えている。
その上で改めて本楽曲を聴いてみると、Aメロ(UKガラージ)でぼんやりとこれまでの人生について振り返りながら相手への想いを徐々に昂ぶらせていき、その想いがピークに達すると共にサビ(ディープハウス)に突入して「君のそばにいるよ(Right Next to You)」というメッセージを力強く繰り返していくという構成・歌い方になっており、大胆に展開するトラックと楽曲の世界観が見事に重なっていることに気付かされる。そのメッセージを証明するかのようにダンスパートのブレイクが用意されているのも痺れる演出だ。この構造であるがゆえに〈RIGHT NEXT TO YOU〉のフレーズはさらに中毒性を加速させていく。こちらについても、ただジャンルを取り入れるだけではなく、本人たちの表現力が元々のアイデアをさらに高次元のものに引き上げた見事な作品であると言えるだろう。
さて、重要なのは、両者とも「突如として」海外のトレンドを落とし込んだ楽曲に挑戦したわけではないということだ。元々、BALLISTIK BOYZは「SUMMER HYPE」、Sexy Zoneは「Arms Around Me」(※1)などを筆頭にこのような取り組みを続けていた。現在の状況についても、彼らが様々な挑戦を経て、満を持して発表した渾身の楽曲が見事にファンベースを超えて多くの人々に届いた結果であると考えるべきだろう。そして、それを支えてきたのは紛れもなくこれまで応援してきたファンである。
もしこれらの楽曲によって、初めてグループの魅力を感じたのであれば、ぜひ彼らのこれまでの、そしてこれからの試みにも注目してほしい。そうすることで、きっと今後、さらに刺激的な楽曲が生まれる場に立ち会うことが出来るはずだ。
(※1)Sexy Zone、『NOT FOUND』カップリング徹底解説 USポップス~歌謡曲まで拡大させた音楽性」 https://realsound.jp/2020/11/post-658954.html
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
Twitter : @neu_mura