Big Thiefメンバーによるソロ新作、Wilcoやスティーヴィー・ワンダーを歌ったLambchop初のカバー盤……USインディー必聴の5作
Heather Trost『Petrichor』
Neutral Milk Hotelのジェレミー・バーンズの妻であり、A Hawk and a Hacksawのメンバーとしても活動するヘザー・トロストのソロアルバム。ソロ2作目となる本作は、バーンズのスタジオで彼と2人で作り上げた。Hawk and a Hacksawでは、東欧のトラッドミュージックを独自に解釈したエキゾティックなサウンドを聴かせていたが、本作ではフォーキーな歌を、エレクトロニックなエフェクトで加工したサイケデリックなドリームポップを展開。リバーブをたっぷり効かせたシンフォニックで歪んだサウンドには、Neutral Milk Hotelをはじめ個性豊かなメンツが集ったレーベル、<Elephant 6>の遺伝子が刻み込まれている。その一方で、ヘザーの歌声は清らかな乙女のようで、作り込んだサウンドとのコントラストがユニークだ。夫婦で経営するニュートラル・ミルク・ペンション。そんなラブリーなムードも楽しい一枚。
Lambchop『Trip』
ナッシュビルを拠点に活動するオルタナカントリーバンド。最近はカート・ワグナーのソロプロジェクト色が強くなり、オートチューンやリズムボックスを使うなど、R&Bの要素を取り入れて新しいアプローチに取り組んでいたが、新作は初のカバーアルバムだ。Wilco(オルタナカントリー)。スティーヴィー・ワンダー(ソウル)。ジョージ・ジョーンズ(カントリー)、Mirrors(プロトパンク)など、カートのルーツがわかる選曲で、ラストナンバーは親交が深いYo La Tengoのメンバー、ジェイムズ・マクニューの曲というのも微笑ましい。Yo La Tengoに通じる丁寧に音を重ねて生み出されたアンビエントな音響空間と、カートの深みのある歌声が生み出すメロウネスはますます味わい深さを増し、アルバムのゆったりとした時の流れに身を委ねたくなる。
■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。