Zoomgals、LEX、Cookie Plant、Tohji……2021年以降のヒップホップシーンの展望 有識者3名による座談会(後編)

 『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)から火がついたMCバトルブーム以降、ヒップホップはコアな音楽ファンだけでなくお茶の間にも広がりをみせている。音楽シーンにおける存在感もさらに高まり、昨年2020年にはCreepy Nutsが大きな飛躍を遂げたほか、Awichが7月にメジャーデビューを果たしたことも話題となった。そして、2019年にアルバム『GODBREATH BUDDHACESS』を発売し熱狂的な人気を集める舐達麻は、現在あらゆるメディアで取り上げられ、彼らの音楽性について様々な議論が繰り広げられている。

 リアルサウンドでは、二木信氏、斎井直史氏、市川タツキ氏を招き座談会を企画。後編となる本稿では、2021年以降におけるヒップホップシーンの変化、また今後の飛躍に期待したいアーティストについても語ってもらった(前編はこちら)。(編集部)

“ダンスとラップの結びつき”も鍵に?

ーー2020年のシーンの傾向を踏まえて、2021年以降のヒップホップシーンはどう変化していくと思いますか?

二木:難しい問いですけど、2020年は、ダンスとラップまたはダンスミュージックという観点でユニークな作品がたくさん出ています。それが、2021年にさらにどんな展開を見せるかは注目しています。例えば、Cookie Plantというクルーは新鮮だった。彼らは今年『Cookie Tape Vol.2』という作品を発表しています。よりダイレクトに彼らの魅力を理解するには、2019年末にYouTubeにアップされた、メンバーのYUNG NIGOとMaddy Somaの「New Buddha」と「Ninja Mode」(両曲とも『Cookie Tape Vol.2』収録)のMVを観るのがいいと思います。ダンスとラップが結びついた時の独特の躍動感があります。

Maddy Soma & YUNG NIGO – Ninja Mode

市川:ダンサブルになっていくっていう。

二木:ダンサブルなヒップホップがもっと増えたら楽しいだろうな、と。

斎井:韻を踏み倒すとは違う価値観のリズムの取り方なんですよね。その話聞いてると、ダンサー出身であるThe Pharcydeがアメリカ西海岸のラップの流れを変えたことや、彼らの影響を大きく受けているRIP SLYMEの存在の重要性にも話が膨らんでしまいそうですね。ダンサーらしいリズム解釈の曲は、シーンを変えるタイミングで必ず出てきますよね。

二木:それはありますね。2017年に「Cho Wavy De Gomenne」と「Cho Wavy De Gomenne Remix feat.SALU」がバズって大人気になったJP THE WAVYも元々ダンサーで、Cookie PlantのMaddy SomaとJP THE WAVYは、D.T.R.I(Do The Right Inc.)として一緒に「Memories」(2018年)という曲を出しています。

斎井:僕の中でダンスって「ルーティンで表現するダンス」と、「リズムの乗り方が自然と様になるダンス」の2種類があって。日本ってルーティン的なダンスは活発だけど、自然と音に自由に乗るダンスは苦手な国民性だとおもうんです。それを踏まえて、「DJ CHARI & DJ TATSUKI – JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE」にも参加してるTysonは、ラップのフロウから後者のタイプがうまい人だと思うんですよね。今後、彼がどんな曲を出してくれるのかを楽しみにしています。

DJ CHARI & DJ TATSUKI – JET MODE feat. Tyson, SANTAWORLDVIEW, MonyHorse & ZOT on the WAVE

二木:ダンスミュージックの解放感を表現していると言えば、Tohjiがいますね。Elle Teresa、UNEDUCATED KID、Futuristic Swaverとの「GOKU VIBES」(「JET MODE」と共にDJ CHARI & DJ TATSUKI『GOLDEN ROUTE』に収録)でも突き抜けていましたが、Tohjiのソロ曲「Oreo」には良い意味で意表を突かれました。ビートはなく、アシッド感のあるシンセのフレーズを鳴らしたドリーミーなトラックでラップするという。そうした、広義におけるレイヴに接近するヒップホップのアーティストやラッパーのいろんなスタイルが出てきたのも2020年の特徴です。ゆるふわギャングが、ヘンタイカメラ♥とYOU THE ROCK★と作った『GOA』はトランス/テクノでしたし、Zoomgalsとしても大活躍だった田島ハルコがMarukido、valkneeと共作した「未来世紀ギャルニア」もトランスだった。一方で、その田島ハルコとvalkneeがラップで参加した、バイレファンキかけ子のEP『TóquioBug』に至っては、ブラジルのバイレファンキと日本語ラップの融合でした。さらに挙げていったらキリがないですけど、共通しているのは、既存のヒップホップの型式や価値観に囚われていない、またはそこから自由になろうとしている潮流があるということです。

Tohji – Oreo

斎井:Zoomgalsでいうと、valkneeが昨年出したEP『Diary』が過小評価されていたなって思って。「SUPER KAWAII OSHI」は個人的に今年一番口ずさんだ日本語ラップかもしれないです(笑)。

二木:Zoomgalsのメンバーのあっこゴリラが、食品まつりやXLII(シリー)といったプロデューサーらと共に作った『ミラクルミー e.p.』はベースミュージックが一つの要でしたね。彼女のラップや主張がパワフルに響くことに、あのサウンドとベースが大きく貢献したのは間違いないと思います。

斎井:valkneeはギャルのノリでズケズケとぶっちゃけるラップが魅力ですけど、今年出たEP『Diary』ではノリはそのままに病んだ自分の世界をテーマとした新しさがあるんですよね。「SUPER KAWAII OSHI」は全生活を”推し”に投げ打っているファンの目線ですし、「I CAN’T BE おまえの思う通り」では今までにないメロウな一面も聴かせてくれます。ギャルな雰囲気なのに、耳を傾けると実は内省的だから心を掴まれますよね。

valknee『Diary』

二木:自分は、『Diary』の中で、KOHHのパンチライン「結局見た目より中身」(「FUCK
SWAG」)の変奏に聴こえた「ハート見えない/上っ面だけ固めてるエスティローダ」と
いうリリックのある「偽バレンシアガ」がいちばん好きです。Zoomgalsには、たしかに「ギャルによるエンパワーメント」という側面もありますけど、「生きてるだけで状態異常」に顕著なように、精神的・身体的な不調……、いや、状態異常のイルな描写がリアルで素晴らしかったと思うんです。

Zoomgals – 生きてるだけで状態異常 (MV)

ーーなるほど。valkneeさんや田島ハルコさんのリリックにも根本には内省的な側面がありますよね。また、異なる角度にはなりますが内省的なリリックというと、(sic)boyさんも印象的でした。彼の言葉選びは、その世代ならではの孤独感や危うさを持っていて、人を惹きつけるものがあります。

市川:(sic)boyさんとKMさんとのコラボアルバム『CHAOS TAPE』は、J-ROCK、J-POPの影響下にあるものですよね。かつ歌詞も鋭い。例えば、「Heaven’s Drive feat.vividboooy」には〈仕組まれている緊急事態〉ってワードを入れていたり、「Kill this feat.Only U」には〈泣きたい顔隠しているマスク〉ってフレーズもあって。〈緊急事態〉とか〈マスク〉ってコロナ禍で聴くとすごく引っかかります。

二木:コロナ禍といえば、2002年生まれのラッパー/プロデューサーLEXは『i-D』のインタヴューで、アルバム『LiFE』について「トラックのバリエーションが広いのも、コロナ期間の心境の変化が自然に反映されていった結果」と語っていますね。その前の作品『NEXT』(2020年)はその名も「MDMA」というBPM160の凶暴なガバから始まり驚きましたが、一方『LiFE』の「BUNNY (feat. ASA Wu) 」などにはアフロビーツ/アフロポップとの同時代性が感じられた。また、「Romeo & Juliet」のMVは台湾のエドワード・ヤン監督の映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』にオマージュを捧げたということですし、「あなたの幸せが1番」などからはオールディーズへの憧憬が窺える。いろいろと興味深い作品です。

斎井:自分にはLEXがまるで日本におけるXXXテンタシオンのような存在に思えます。トリッキーなフロウはとてもフレッシュですが、センシティブな歌もあれば、破壊的で衝動的な曲もある。彼は心の内面すべてを曲にしているようですが、どこか手が届かないミステリアスな存在感もあり、重ねてしまいます。

市川:XXXテンタシオンって言うと、僕は(sic)boyに対してXXXテンタシオンを感じました。LEXさんはミクスチャーロックの文脈もあるのかなと。

二木:グランジとラップということで言えば、Hideyoshiの「Here」(『Dead End Adventure』収録)という曲のギターが、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」を彷彿とさせたのを思い出しました。

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