V系シーンから“ウィズコロナ”の新たなライブは現れるか アルルカンら所属、GOEMON RECORDS密着ドキュメンタリーを見て

アルルカンら所属事務所密着ドキュメンタリーを見て

 12月23日にNHK総合『タイムリミット』にて、ヴィジュアル系音楽事務所「GOEMON RECORDS」の代表・石川雄一氏に密着したドキュメンタリーが放送され、コロナの影響による厳しい経営状況が明らかになった。GOEMON RECORDSは、番組収録時点でアルルカン、POIDOL、マザーの3バンドが所属しており、現役でライブハウスに通うV系ファンにはよく知られている事務所である。特に所属バンドのアルルカンは、始動から僅か1年でLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でのワンマンライブを成功させ、V系専門雑誌の表紙を何度も飾っている人気バンド。そんなV系シーンの最前線にいる事務所が、このコロナ禍で存続危機に立たされているという。

 まず、2020年に行う予定だった24公演のライブが中止になったことで、売り上げ見込み約2000万円がゼロになり、さらにチケットの払い戻し手数料で数百万円の赤字に。3月時点で、収益の前年同月比はマイナス95%と、かなり厳しい経営状況にあったようだ。そこに追い打ちをかけるように、所属バンド・POIDOLの解散が決定。8月より、有観客での解散ツアーを始めるが、政府のガイドラインにより収容人数に制限があるため、チケットの売り上げは半減。1万円のVIPチケット(通常価格の2倍で希望メンバーと30秒間自由な時間を過ごせる特典付き)やチェキの販売でなんとか収益を増やそうと試行錯誤するが、ライブをやればやるほど赤字が増えていく状態。このとき石川氏は事務所を存続させるため、銀行から1億円の融資を受けたという。

 10月には、事務所の柱であるアルルカンが有観客ライブを行なうことが決まっていたが、その費用は700万円弱。外出自粛などの影響からチケットの売れ行きは振るわず、感染対策の観点からグッズ販売もできないため、さらなる赤字が見込まれていた。その打開策として、ライブの配信チケットをメンバーが自ら電話で受付するコールセンターを企画。さらに経済産業省によるエンタメ業界のネット配信補助金制度「J-LODlive」を利用することで、なんとか赤字を抑えることに成功した。POIDOL、そして2021年1月にはマザーの解散も決まり、所属バンドがアルルカンのみになるGOEMON RECORDSの今後について、番組の最後に石川氏は、「今のバンドとスタッフを守りながら、新しい”金の卵”を見つける」と熱く語った。今現在も厳しい状況が続いていることは間違いないが、ジリ貧の中でも事務所を畳む決断をしなかったのは、元V系バンドマンでもある石川氏のシーンに対する愛と熱意に他ならない。

 本来は楽しいものであるエンタメにおいて、経営難という何とも重たい問題をリアルな数字で直視するとさすがに辛いものがあったが、番組中にアルルカンやPOIDOLのライブ映像が流れ、今のV系のライブが地上波でお茶の間に放送されたことは唯一の救いと言える。特に10月のアルルカンの有観客ライブは実際に生で観に行ったが、個人的には番組で放送されていた印象よりも満足度が高かった。久しぶりの有観客とは思えないほどメンバーの動きはイキイキしていたし、セットリストは久しぶりにライブを観るファンからの期待に応える定番曲と、コロナ禍でリリースした新曲がバランス良く組み込まれていた。フロアに関しては、声出しやモッシュの禁止などの制限はあったものの、マスクを着けたままヘドバンをしたり、涙ぐみながらステージを見つめたりと、思い思いにライブを楽しんでいるようだった。様々なリスクのある中でも有観客ライブに踏み切り、配信トラブルもあったもののクオリティの高いパフォーマンスを生で観客に見せられたことは、同じようにライブの開催を悩む他のバンドや事務所への刺激にも繋がったはずである。

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