『’99 PEACHY』インタビュー

悲しみと愛と人間関係……uyuniが語る、自身を形成するいくつもの要素 アルバム『’99 PEACHY』が完成するまで

 Rin音や堂村璃羽といった新世代アーティストとのコラボで注目を浴び、2019年5月に発表したSALU「RAP GAME (Remix)」では、原曲のトラックを手掛けたプロデューサーのKMから賞賛されたuyuniが、1stアルバム『’99 PEACHY』を完成させた。歌とラップの両方をこなし、ビートメイク/作曲/編曲まで、すべてをセルフプロデュースできる彼女の音楽性は驚くほど多彩。今回のアルバムには、フューチャーベース、ドリームポップ、エレクトロニカ、さらにポストエモラップに見られるグランジ/オルタナ風味やポップパンク、加えてアコギによる弾き語りまで、多種多様な音がパックされている。彼女はどのような音楽に触れて育ち、自身のマルチサウンドを生み出すのか。uyuniを形成するいくつもの要素を聞き出しつつ、アルバムに込めた思いも語ってもらった。(猪又孝)

「私が活動を始めた元を辿ると元カレなんです(笑)」

ーー福岡生まれだそうが、現在は東京を拠点に活動されているそうですね。

uyuni:今は音大に通ってます。4年生です。

ーー専攻は?

uyuni:コンピュータ音楽です。作曲とか、音楽を使った映像制作とかインスタレーションとか。学校に音響スタジオがあるのでエンジニアリングも勉強できる環境です。

ーー最初に音楽に触れたのは、いつ頃ですか?

uyuni:母親が私に絶対音感をつけたくて、3歳の頃にピアノを習わせたんです。でも絶対音感をつけたがったくらいだから、親がめちゃくちゃ厳しくて1音間違えただけでぶった叩かれる、みたいな。それが嫌で小学校1、2年生くらいでピアノを辞めました。

ーー絶対音感は付いたんですか?

uyuni:付いたんですけど、音楽をやってる=親に怒られるみたいになっちゃって、音楽なんて一生やんねぇぞと思ってたんです。でも、小学校5年生の時にテレビでバイオリン奏者を見て、かっこいいなと思って、私から「習わせてくれ」って言ったんです。そこからいろんなジャンルの音楽を聞くようになって、音楽の幅が広がって、やっぱり音楽は楽しいなって思い始めました。

ーーどのようものを聞くようになったんですか?

uyuni:その頃、ボカロにハマって。親のパソコンを使える環境だったから、バイオリンの練習のためにYouTubeで演奏動画を調べていたら、その流れでボカロを見つけて、そこから電子音が好きになっていったんです。

ーーJ-POPは聞いてなかったんですか?

uyuni:中学校1年生の時に友達に連れられて『パラダイス・キス』という映画を観に行ったんです。その主題歌(「HELLO 〜Paradise Kiss〜」)をシンガーソングライターのYUIさんが歌っていて。それを映画館で聞いたときに初めて歌声というものに感動しました。YUIさんはギターと歌と作曲、全部やるじゃないですか。だから、私もやりたいなと思ってギターをクリスマスプレゼントで買ってもらって練習し始めて、歌もなんとなくフフフンみたいな感じでやって、作曲もピアノで適当にやる、みたいなことを始めたんです。でも、どうにもカタチにならなくて……みたいな中学生活でした。

ーーYUIさんのどんなところが衝撃だったんですか?

uyuni:声が透き通っていて、芯が太くて。映画館で聞いたこともあってか迫力もあって、すごく衝撃的でした。きれいな声だなと初めて思ったんです。

ーーそれまでボカロにハマっていたから、人間の生声というところにも反応したのかな。

uyuni:かもしれないです。YUIさんに出会ってからは「歌ってみた」動画とか歌い手さんが歌っている方をよく聞くようになったので。

ーー最初に手にしたギターはアコギですか?

uyuni:アコギです。でも、いろいろ聞いていくなかでバンドもかっこいいなと思い始めて、エレキもノリで買いました。でも、エレキはほとんど放置状態(笑)。どちらかというとアコギばっかりやってました。

ーーその後、音楽体験はどう進んでいくんですか?

uyuni:高校1年生の時に友達伝いで誘われてバンドを組みました。ナントカ高校のナントカくんがバンドをやりたくて「ギターが弾ける歌える子を探してる」っていう話を聞いて、3ピースバンドを組んだんです。そしたらオリジナル曲が欲しいっていうことで作曲をしなくちゃいけない状況になっちゃって。ギターも練習して歌も練習して作曲もして、自分で曲をカタチにできるようになったのが高校生時代です。

ーーその3ピースバンドはどのような音楽性だったんですか?

uyuni:自分たちではわからなくて。周りに言われたのはギターパンク。SHAKALABBITSみたいだねってめっちゃ言われてました(笑)。

ーー作曲せざるを得ない状況になったというのは?

uyuni:曲を作れるのが私しかいなかったんです。遊びでしたけど中学時代から作ってはいたので、頑張ればできるだろうと思って。私以外の2人は男の子だったんですけど、私、適当な扱いを受けていて。「ライブがあるから前日までに新曲を作れ」とか「物販もお前が全部手配しろ」みたいな。未だに借金めっちゃされてるんですよ。貸した金が返ってきてない。

ーー同い年だったんですか?

uyuni:そうです。同い年なのにめちゃくちゃこき使われて。でも、それで訓練されて曲を作ることが早くなりました。当時はストレスだったけど、今のわたし的には良い経験だったのかなと。相当鍛えられたから(笑)。

ーーここまでを振り返るとピアノとバイオリンを習って、ボカロにハマり、YUIの歌声にしびれてアコギを手にし、3ピースバンドを組んだ子が音大をめざすという振り幅のある流れになります(笑)。

uyuni:あはは。確かに(笑)。

ーー音大をめざしたきっかけは何だったんですか?

uyuni:学校で将来の夢とか聞かれるじゃないですか。毎回のようにそれが変わるんですよ。今振り返ると、中学生の頃だから変わってもいいと思うけど、自分的に焦ってて。美容師になりたいとかネイリストになりたいとか、ころころ変わるから、親に「一体自分が何になりたいのかわからん!」って言ったんです。そしたらギターを楽しそうにやっとるし、結局音楽好きそうだし、音楽が向いてると思うけどね、って軽い感じで言われたんですよ。軽く言われたことで「マジでそうかも」と思って。それを高校に入ってすぐの頃に言われたので、音楽の高校に行けば良かったっていう後悔が急に出てきて。じゃあ、もう音大に行こうと思って。で、高1から、受験のために、やりたくもなかったピアノをまた習い始めたんです。

ーー面白いものですね。音楽を一度嫌いになった理由は母親。でも音楽に進む背中を押してくれたのも母親っていう。

uyuni:そう。もうなんだそれって感じなんですけど(笑)。

ーーコンピュータ音楽とかDTMに興味を持ったのはいつ頃からなんですか?

uyuni:高校時代です。バンドメンバーにワーワー言われてストレスだったから、普段からバンドの曲は聞きたくなくて、EDMとかヒップホップを聴き始めたんです。そしたら、そういう音楽を作りたくなって。高校の頃に一回DAWに触ったことがあるんですけど、私の使い方が悪くてパソコンが壊れちゃって(笑)。大学の入学祝いでパソコンを買ってもらったので本格的に始めました。

ーーuyuni名義での活動は、どのように始まったんですか?

uyuni:私が活動を始めた元を辿ると元カレなんです(笑)。元カレが趣味でラップをニコ動に投稿してた人で。私がビートを作ったら一緒に曲を作れるかなと思って、最初はビートだけをずっと作ってました。そしたら、元々バンドで歌ってたから自分で歌いたくなってきちゃって。それでuyuniっていう名義でニコ動にアカウントを作って投稿し始めたんです。それが2018年5月です。

ーーじゃあ、ラップは元カレの影響で始めたんですか?

uyuni:そうなんです(笑)。それまでメロディしか歌ってこなかったら興味があって。「やってみれば?」って言われて何となくやってみたら「いいじゃん」って言われたんで、調子こいて始めました(笑)。最初は見よう見まねだったんですけど、やり始めたら面白くなってきて。その頃には彼が音楽を作ることを辞めてたから、結局、一緒にやったことはないし、私だけ独りでずーっと曲を作ってたんです。

ーーボカロ、パンクロック、ラップ、EDM、J-POPと様々な音楽に触れていますが、それぞれのジャンルで参考にしたり、よく聞いていたアーティストはいますか?

uyuni:ボカロだとDECO*27さん。小学生の時に「モザイクロール」とか「弱虫モンブラン」とか聞いて、めちゃくちゃすごいなと思って、こんな曲を作れたら楽しいだろうなと思ってました。

ーーパンクやロックは?

uyuni:バンドはラッド(RADWIMPS)を一番聞いてたかな。けど、パンクっぽさは自分で曲を作ってみたらそうなっただけで、特に参考にしたものはないです。

ーーラップは?

uyuni:自分で作るものと普段聞いてるものが全然違うんです。Ashnikko(アッシュニコ)というイギリスの女性のラッパーさんは、トラップを多く作る人で全然私のスタイルではないんですけど、よく聴いてます。あとはblackbear(ブラックベアー)とか。

ーー今回のアルバムを聴いて、日本のラッパーの(sic)boyやTohjiのようなテイストも感じたんですが、彼らの音楽は聴きますか?

uyuni:聴いてます。(sic)boyさんは全曲知ってるくらい。Tohjiさんの「mAntle fuck」という曲は、今回、Le Makeupさんと作った「swimmer」の音作りで参考にしました。

ーーその他にuyuniの音楽性に影響を与えているジャンルはありますか?

uyuni:フューチャーベースです。高校時代にバンドが嫌になってEDMとかを聞いていたときに、Yunomiさんの曲を知って、フューチャーベースにめちゃくちゃハマって。トラックを作る時、声ネタをイントロに使ったりするんですけど、それはフューチャーベースから来てると思います。 

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