世界的K-POPブームが作り上げられた背景 BTSをはじめとした“慰め”のメッセージ

K-POPアイドルとファンダムは共に歩んでいく

 世界的人気を誇っていたボーイズグループOne Directionが2015年の大晦日に活動を休止してから約1年半が経過した2017年9月、元々はダークな路線だったBTSが『LOVE YOURSELF 承 'Her'』の軽快なタイトル曲「DNA」(2017年/全米67位)を引っ提げて、初めてBillboard Hot 100にランクインした。アルバムに掲げられた“自分を愛する”というテーマは、蔑ろにされていた権利を取り戻そうとする時代の流れや、思春期の子どもたち、誰しもが経験するであろう自己肯定感が低くなる瞬間など、さまざまなシーンにおいて大きな意味を持ったはずだ。シンディ・ローパー「True Colors」(1986年)、クリスティーナ・アギレラ「Beautiful」(2002年)、ケイティ・ペリー「Firework」(2010年)、P!nk「Fuckin’ Perfect」(2010年)、レディー・ガガ「Born This Way」(2011年)が大ヒットしたように、自分を愛する事は普遍的なテーマである。K-POPアイドルはさまざまな機会でファンに「健康で幸せでいてください」と伝えるが、その手助けとして自分たちの作品でファンを慰めているのだ。

 さて、起承轉結で構成されたBTSのLOVE YOURSELFシリーズは、その後の『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』と『LOVE YOURSELF 結 ‘Answer’』の2枚とも全米1位を獲得した。翌年2019年、BTSは『LOVE YOURSELF : SPEAK YOURSELF』と題されたツアーを行った。“自分を愛して”というメッセージの次に、“自分のことを話して”というメッセージを打ち出してきたのだ。自分を愛することは、自分ひとりで行うもの。しかし、自分のことを話すのは、相手がいてこそ。同様に、NCTは2018年に『NCT 2018 Empathy』というアルバムを出し、2020年に『NCT 2020 Resonance』というアルバムを出した。こちらも、“共感”はひとりで行うものだが、その次はお互いに“共鳴”するという進み方をしている。また、SEVENTEENは『Heng:garae』(2020年)で夢に向かって挑戦する青年たちに応援のメッセージを伝えたが、次の『; [Semicolon]』(2020年)では休まず走り続ける若者に向けて「少し休みながら青春の饗宴を楽しもう」と手を差し伸べた。このように、K-POPアイドルはファンダムと一緒に次のステップへ進み、その絆をより強固なものにしていく。人生を共にしている感覚が、自分はひとりじゃないと感じさせてくれるのだ。

ダイナマイトに照らされて、人生は続く

 さて、BTSは次に『MAP OF THE SOUL』シリーズを展開する。アルバムは2枚(『MAP OF THE SOUL : PERSONA』、『MAP OF THE SOUL : 7』)とも全米1位、それぞれのタイトル曲もホールジーを客演に迎えた「Boy With Luv」が全米8位、「ON」が全米4位とトップ10ヒットを記録した。そしてそのシリーズを題した大規模なツアーを行う予定が、新型コロナウイルスによってすべてが白紙となってしまった。しかし、BTSがファンダムとの歩みを止めることはなかった。

 2020年8月21日、BTSはファンに癒しを与えるため、シングル「Dynamite」をリリースした。楽曲クレジットにメンバーの名前が一切ない、全英語詞の弾けるようなディスコソングだ。以前メンバーのVがシャッフル再生で曲を流していた時に「この歌はパンって弾ける感じがしないね。次の歌」とスキップしていたことがあったが、この曲は間違いなく”パンって弾ける感じ”のサウンドである。何より「ファンクとソウルで街を輝かせる/ダイナマイトのように照らすよ」と歌うサビは、コロナ禍ですっかり暗くなってしまった世界を文字通り照らしてくれた。その証拠に、この曲がBTSに初のシングル全米1位をもたらした。全英語詞にすることで、公式Twitterのリプライ欄で散見される「I don't understand this but I like it(意味はわからないけど好き!)」というフレーズを使う英語圏のファンにもダイレクトに意味が伝わり、ラジオでもプレイされた結果であろう。BTSはこの曲でさらにファンダムを増やし、Jawsh 685 x Jason Deruloの「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」に英語と韓国語のミックスという形で客演を行い、こちらも全米1位を獲得。

BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV

 vそして満を持して、メンバーが制作に関与し、全編韓国語で歌っている「Life Goes On」で全米1位を獲得した。この曲は、コロナ禍であっても“人生は続いていく”という、2020年的でありながら、それと同時に普遍的なテーマを持った優しい曲だ。SUGAのパート「人々は言う/世界が大きく変わったと/幸い僕たちの絆は今もなお変わらないまま」に、BTSとファンダムであるARMYとの強固な繋がりが感じられる。

BTS (방탄소년단) 'Life Goes On' Official MV

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