世界的K-POPブームが作り上げられた背景 BTSをはじめとした“慰め”のメッセージ

どんな時でもエンターテインメントを

 表立ってさまざまな記録を樹立しているためBTSにフォーカスしたものの、ファンダムへの慰めの提供やファンダムとの絆の確認は、他のK-POPアイドルも同様だ。

 SuperMは「With You」でメンバーとファンそれぞれが自宅にいても繋がれる事を伝え、PENTAGONは「HAPPINESS (KR ver.)」でうんざりする世界から一緒に逃げようと投げかけ、SEVENTEENは「Together」で一緒に行こうと手を差し伸べた。TOMORROW X TOGETHERに至っては直球で、コロナ禍で失われた季節を返せと歌う「We Lost The Summer」を発表した。

TXT (투모로우바이투게더) '날씨를 잃어버렸어' Official MV

 また、どのK-POPアイドルも無観客でのパフォーマンスを強いられ、世界中から集められたファンの掛け声を聞いて涙したり、オンラインコンサートでファンと会いたくて涙したり、コロナ禍はファンだけでなくアーティスト側からもさまざまなものを奪っている現実を目の当たりにした。しかしファンに慰めを与えることはコロナ禍があってもなくても昔から続いている営みで、WINNER「Hold」、EXO-SC「1 Billion Views (Feat. MOON)」、Golden Child「Pump It Up」、THE BOYZ「Christmassy!」、SEVENTEEN「Left & Right」「HOME;RUN」、TOMORROW X TOGETHER「Blue Hour」、Yubin「yaya (ME TIME)」等明るく楽しい楽曲を届けてくれるアイドル、WOODZ「BUMP BUMP」、PENTAGON「Daisy」等感傷的にさせてくれるアイドル、EVERGLOW「LA DI DA」、CHUNG HA「Stay Tonight」、「PLAY (feat. CHANGMO)」等塞いだ気持ちをアゲてくれるアイドル、イ・ジニョク「Bedlam」、Stray Kids「God’s Menu」「Back Door」、TREASURE「I LOVE YOU」等頭を空っぽにさせてくれるアイドル、イ・デフィ「ROSE, SCENT, KISS」、Hwa Sa「Maria」、BAEKHYUN「Candy」、MINO「Run Away」等所属しているグループとは違う色をソロで見せてくれるアイドル等、2020年も絶えずさまざまな慰めが提供された。このように、コロナ禍はファン/アーティスト問わず全員に等しく起きている惨事であるにも関わらず、ファンを楽しませようとする“ファン第一主義”な姿勢が、慰めを求めるあらゆる層を巻き込み、今の世界的K-POPブームを作り上げているのではないだろうか。

K-POPは多様性の時代の象徴

 これまで述べてきたように、K-POPにはさまざまなタイプのアイドルや曲が存在する。日本人のYUKIKAが韓国で『Soul Lady』というシティポップをリリースしたり、3人組ユニットN.O.Mが「I’m not but」でヴォーギングをしたり、枚挙に暇がない。

 特にNCT Uの「From Home」は多国籍グループである事を生かした韓国語・英語・日本語・中国語の4カ国語で歌われるバラードで、活動曲として韓国の音楽番組でも披露された。逆に海外でも韓国語で曲を披露する機会が増え、ここ日本でもJapanese ver.ではなく韓国語そのままで歌唱されることが増えてきた。国の壁・言語の壁を超えて世界が開けていくようで、その瞬間に立ち会う度に感動を覚える。

 また、韓国のバラエティ番組『遊ぶなら何する?』から誕生したオム・ジョンファ、イ・ヒョリ、ジェシー、ファサ(MAMAMOO)によるスペシャル・ユニットRefund Sisters(払い戻し遠征隊)はアイコニックだった。ディーヴァが4人集結する構成はクリスティーナ・アギレラ、P!NK、Lil’ Kim & Myaの「Lady Marmalade」を思い起こさせ、4人が燃える建物をバックに大笑いしながら立ち去るという威勢の良さは、エネルギーに溢れていてとても元気をもらった。

 いろんな人がいるのだから、K-POPにもいろんなものがある。もちろん、これまで述べてきたことはJ-POPにも洋楽にも当てはまることである。しかし今、最も活発的に、かつ最もファンを慰めるために活動しているのは、K-POPアイドルではないだろうか。多様性を尊重する考え方がようやく広まりつつある今、韓国語話者が少ない世界でK-POPが人気になっているのは、まさに時代が進んでいることの象徴のようだ。私は、世界のチャートにいろいろなジャンル・言語の曲が並ぶ事は、希望だと思っている。今後、世界がさらに開けていき、まだ見ぬ知らないものとの出会いが待っていると思うとワクワクする。自分の世界が広がる楽しさを教えてくれるという点も、K-POP人気の理由のひとつに違いない。

 共に歩む喜びに、絶え間ない慰めに、そして新しい景色に、世界は今、熱狂している。

 最後に、ファンのことを考えてたくさんの慰めを与えてくれるK-POPアイドルたちへの感謝の言葉として、冒頭に抜粋したIUの受賞スピーチの続きを引用したい。

「人間として自分のことを先に考えて慰めてほしいです。表に出してはいけないと思って、逆に病気になったりつらい思いを絶対にしたりしないで欲しいです」

■ゆずひめ/音楽愛好家。
好きな音楽ならなんでも聴くため、「耳ビッチ」を自称している。架空のWeb雑誌『#BitchVogue JAPAN』の編集長を務め、UKI EYEというステージネームで自ら音楽活動も行う。Twitter:@akaredlipsberry

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