『涙流るるまま』インタビュー
南條愛乃に聞く、『グリザイア』シリーズと築いた作品との理想的な関係「どの曲も大事な相棒みたいな存在」
悲しい曲に聴こえないぐらいに綺麗で前向きな言葉で書かれている
ーー特定のキャラクターがイメージできる歌詞だからこそ、レコーディングで歌う際の気持ちの込め方もこれまでとは違ったのかなと思います。
南條:私の場合、この歌詞はトーカやグミから見たシホちゃんが思い浮かぶんです。私はレコーディングで歌う際、曲の主人公に感情移入して歌うことが多いんですけど、かといって今回は自分がトーカである、グミであるという感じではなくて。むしろ、「もし自分にとって大事な人がいなくなってしまった世界が今だとしたら」みたいな感情で歌いました。
後半に進むにつれて悲しさが蓄積されていき、また楽曲自体もすごく壮大で綺麗なので、「大事な人がもういない世界なのに、なんでこんなに綺麗なんだろう」とどんどん悲しくなってしまうんです。〈僕は先に大人になって 君の無邪気な笑顔 思い出す〉から〈この世界中は 君への想い 愛で溢れてる〉という最後のサビあたりでは、たぶん何を見ても君という大事な人との思い出と紐づいてしまって、思い出してしまうんでしょうね。家族やペットに当てはめると、それこそ「このお皿使っていたなあ」とか「この道、一緒に散歩したな」とか何を見ても大事な人のことを思い出してしまう感情は私もすごくわかるので、この曲を歌っていても聴いていても悲しくてやりきれなくなるんです。
しかも、そこで悲しい言葉を重ねるんじゃなくて、一見悲しい曲に聴こえないぐらいに綺麗で前向きな言葉で書かれているのが、また憎くて(笑)。悲しいことを悲しいと言わず、すごく前向きに生きようとしているのに、でもずっと悲しい気持ちが消えないままで、心の中では泣き続けて生きているんだなというのが、本当に悲しいです。私の中では「サヨナラの惑星」が今までで一番悲しい曲だったんですけど、今回はそれを超えた、歴代一番悲しい曲だなと思いましたね(笑)。(作詞を担当した)桑島由一さんの歌詞も、毎回「どこからその言葉が出てくるんだろう?」って不思議でしょうがないんですよ。
ーー日本語って美しさを追求すればするほど、儚さとか切なさって強まる傾向があるから、この「涙流るるまま」ではその要素がより強調されたんでしょうね。さらに、この歌詞には具体的なワードも出てくるからこそ、よりイメージしやすいものもあるし、作品を観ることでよりキャラクターへの思いも強まるんじゃないでしょうか。
南條:トーカってツンデレな感じがありますけど、こういう気持ちを持ち合わせたままあの場で頑張っていたんだなと思うと、より一層トーカのことも愛おしくなるみたいな。この曲によって新たな一面を知ったみたいな気持ちも湧いてきましたね。
どこに行っても君という存在と紐づいている
ーーMVも拝見しましたが、こちらも歌詞とのリンクを強く感じさせる仕上がりですね。
南條:今回のMVでは星というのを第一のキーワードにしたいなと思って。これは私が勝手に思っていることなんですけど、シホちゃんの曲でもあると思うんですけど、シホって逆から読むと「ホシ=星」になるじゃないですか。それがサビの最初に出てくる〈星が照らす〉と重なって。シホちゃんが星になっちゃったという意味合いもあると思うんですけど、この星という単語にはいろんな意味が込められているんじゃないかなと思ったので、そういう話を監督にお伝えして。かつ、『スターゲイザー』のあらすじやシホちゃんとトーカの関係性も説明して、MVのストーリーを作ってもらいました。
あと、〈2人で眺めた 桜は今も 咲き乱れ〉という歌詞から、私の中で桜というのもずっと印象に残っていて、桜もサブ的なテーマでキーワードとして入れたいなと思って。そこからイメージして、今まであまり着てこなかったピンク色の衣装をデザインしてみました。衣装の中にも星を入れたかったので、スパンコールでキラキラ光る生地を衣装さんに見つけてもらって、それをフリルの部分に入れて。かなり作品に寄り添ったストーリーや衣装になったかなと思います。
MVでは行く先々で星が現れるんですけど、それも絵的に綺麗というのはもちろんありつつ、さっきの〈この世界中は 君への想い 愛で溢れてる〉というフレーズにつながっていて。バスの中でも部屋の中でも星が輝いていて、どこに行っても君という存在と紐づいているというのを映像的に表現できているかなと思っています。
ーーラストシーンは特にグッとくる演出でした。
南條:あそこは決別の意味合いもあるし、忘れられないという意味合いもあって。ずっとパートナーに描いてもらっていた絵に対してある行為をすることで、それによって空に届いたら続きを描いてもらえるかなみたいな気持ちもあるんだよという説明を監督から受けて、なるほどと思いました。
ーー全体的に映画的な作りで、非常に見応えがありました。ここはネタバレなしで、ぜひエンディングまで観てもらいたいですよね。
南條:ありがとうございます。思い返してみると、今まではストーリーテラー的な立ち位置で物語を紡いでいくMVが多かったので、私自身が曲の登場人物になるのは『グリザイア』シリーズのMVとしては初めてなんじゃないかなと、今ふと思いました。