藤井隆×冨田謙対談  最新作『SLENDERIE ideal』はこうして完成したーー二人が示した<SLENDERIE RECORD>のカラー

藤井隆×冨田謙が示したレーベルカラー

「ブワッと出てきたときの“匂い”が全て」

ーー本編の中では、椿鬼奴さんの「Love’ s Moment」が個人的に白眉でした。

藤井:僕の中で、RG(レイザーラモンRG)さんと椿(椿鬼奴)さんは特別な存在です。今回のアルバムはほぼ全曲リクエストというか、「この曲を歌って欲しいです」とこちらから指定させてもらうことが多かったのですけど、RGさんと椿さんには、ご本人たちから歌いたい希望曲をお伺いしようと。椿さんとのミーティングでは、架空アニメ『超空のギンガイアン』(2018年リリースの椿鬼奴の1stミニアルバム『IVKI』制作にあたり設定された架空のテレビアニメ)の話がすぐ出てきて(笑)。ご本人の中でまだあのシリーズがまだ続いていることがわかったので「じゃあ、その路線でいきましょう」と。そうなると、曲は絶対に堂島さんにお願いしようと思っていました。椿さんの『IVKI』でプロデュースをしてくれた、堂島さんのお力を存分に借りた感じですね。

椿鬼奴「Love’ s Moment」

 

椿鬼奴『IVKI』

ーーこの曲は、80年代ニューミュージックのエッセンスがふんだんに盛り込まれています。

藤井:アニメ『ルパン三世』のエンディングテーマのような、大人っぽいジャジーな雰囲気がいいなと思って堂島さんにオファーしたところ、30分くらいで最初のデモが送られてきたんですよ。それを聴いて震えました(笑)。さらに冨田さんが、細かいところから僕の好みの音楽をたくさん引っ張ってきてくれたので嬉しかったですね。

冨田:ルパンの話は最初になんとなく聞いていたし、あのノスタルジックな雰囲気を出すためには、生のエレキギターを入れたり古い機材をあえて使ったりすると良さそうだなと。「夕焼けに赤く染まる海」というキーワードも早い段階から出ていたので、そこを意識しつつ80年代後半〜90年代前半のR&Bっぽいスタイリッシュな要素も入れてみました。

 ちなみに音源は、E-MU Proteusという古い音源モジュールを引っ張り出してきて、あの時代に気分を戻して作っていきました。ものすごく手間がかかって苦労しましたけど(笑)。ただ、そんな話は藤井さんにとってはきっとどうでも良いことで、ブワッと(音が)出てきたときの「匂い」みたいなものが全てだとは思うのですけどね。

藤井:イントロのベースの入りから「うわもう、これ好きな感じです!」というアレンジを冨田さんからいただけたし、堂島さんもそれをすごく気に入ってくださって。「よし、あとは歌入れが楽しみですね」という段階までに完璧に準備しておかないと、椿さんの場合は全部持っていかれちゃうので気合入れましたね。ちょっとでも怯むと椿さんのパワーに負けてしまうんです(笑)。

ーー確かに。サウンドプロダクションは緻密で完成度が高いのに、椿さんのボーカルはその全てを破壊するくらいエモーショナルですよね。

藤井:最後のスキャットとかめちゃくちゃ凄いでしょう?(笑)。あそこは椿さんのアドリブですが、『宇宙孤児イブキ』のエンディングテーマだから、ちゃんと「孤独」を歌い上げて締めるっていう。誰よりも『ギンガイアン』の世界観が頭の中に入っているんですよね。って、当たり前ですね。

ーー早見優さんが歌うジョルジオ・モロダーのカヴァー「Right Here, Right Now」も秀逸です。

藤井:カイリー・ミノーグと早見さんを重ねているわけじゃないんですけど、カイリーさんが放つ多幸感というか「ああ、幸せ!」という感じは、僕が小学生の頃から好きだった歌手『早見優』さんの「ハッピーさ」に通じるところがあって。そんな早見さんには、僕の大好きな楽曲「Right Here, Right Now」を今回、ぜひ歌って欲しかったんです。アレンジはもちろん、日本のジョルジオ・モロダー冨田さんにお願いしようと。

早見優「Right Here, Right Now」
ジョルジオ・モロダー「Right Here, Right Now」

冨田:(笑)。もちろん僕はジョルジオ・モロダー大好きですし、彼の音楽を聴いて育ってきたようなものですから、プレッシャーも相当ありました。「Right Here, Right Now」はカイリーの歌もものすごくいいのですが、ポップスとしては特殊じゃないですか。いわゆるダンスミュージックならではの曲構成だから、それをいわゆる「歌謡曲」を歌い続けてきた早見さんに歌ってもらう時に、どうアレンジすれば一番ハマるのかはかなり考えました。ただ、早見さんがすごいのはそこにいるだけで「有難い」オーラが出ているんですよね(笑)。それさえ失わないように気をつければ、きっと気持ちいい曲に仕上げられるだろうと。そう確信したところで腹を括って挑みましたね。

藤井:冨田さんとは、同じく早見さんの「溶けるようにkiss me」を制作した時に「全部好みのアレンジにしてくださる!やっぱりすごい!」と再確認して(笑)。とにかく、その時に頭の中にあったものを形にしてくださったのがありがたかったです。

ーーMVもとてもカッコ良くて。藤井さんは本人すら気付いていないような、その人の魅力を引き出すのにとても長けている人だなと改めて思いました。以前のインタビューを読むと、ある人から「本人よりも相手のことを好きになるというのは当たり前として必要なこと」と言われたのが大きかったようですね。

藤井:そのことをおっしゃってくれたのはとあるプロデューサーなのですが、「誰かに何か指示を出すならば、その人以上にその人のことを理解していなければならない」とも言われたんです。ご本人が気付いていないことまで引き出せているかどうかは、自分ではわからないですけど、ただ、例えば写真などでも「そう、その表情!」みたいな、自分が好きなその人の瞬間を切り取っていくのは、昔からすごく好きだったんですよね。

ーーご自身にとっての「好き」を、相手の中から引き出していくのがプロデュースする際のモチベーションになっているんですかね?

藤井:僕は、嫌いな人ってあまりいないんですけど、「好き」の濃度にはグラデーションがあると思うんですよね。すごく好きな人に対してじゃないと動けないし、何か一緒にやるとなったときには、「こんなことやってみたい」「こんな顔が見たい」という気持ちにどんどんなっていくんですよね。「川島くんはどんなことが好きなんだろう?」「椿鬼奴さんのいいところってここですよね、でも他にもあるんじゃないかな?」みたいな感じで。僕はこの人のこと、どれくらい好きなのか、そもそもなぜ好きなのか?みたいなことを、掘り下げていくことがモチベーションになっているのだと思います。

ーーしかも藤井さんはそれを、周りにいる全ての人に対して行っているのでしょうね。

藤井:あははは、そうなのかな?

冨田:それは間違いないと思いますよ。藤井さんの振る舞いからは、誰に対しても「敬意」みたいなものを感じますよね。僕に対しても、高村くんに対しても、スタッフに対しても常に敬意を持っていられる人。それはどんなお仕事でも大事なことだと思いますけど、特に僕らのような、形のないものを探りながら作っていく場合、「じゃあ何を探しているのか?」を答えてあげたくなる気持ちというのは、「敬意」が発端になっていると思います。その積み重ねでできたのが本作じゃないかなと。どなたかがツイートされていましたが、「相思相愛関係がちゃんと音になっているアルバム」は、言い得て妙だなと思いました。

藤井:ああ、確かに。嬉しいですね。

冨田:実際にレコーディング現場に立ち会っていても、いい感じに歌が録れた時は藤井さん、本当に嬉しそうに喜んでいるんですよ(笑)。それをヘッドホン越しに相手に伝えると、「ホンマですかあ?」と言いながら嬉しそうにしている。そこで相手にも「敬意」が伝わっているし、相手からの「敬意」も返ってくる。そういう「深い敬意の交換」でこのアルバムはできているのだなと思います。

■アルバム概要
『SLENDERIE ideal』
10月28日(水):¥3,000(+税)
<収録曲>
1.「ideal」※Instrumental
作曲・編曲:冨田謙
2.「where are you」/ 川島明
作詞:神田沙也加 作曲:堂島孝平 編曲:冨田謙
3.「悲しみSWING」/ 後藤輝基
作詞:小林和子 作曲:西木栄二 編曲:澤部渡(スカート)
4.「アクアマリンのままでいて」 / レイザーラモンRG
作詞: 売野雅勇 作曲: 和泉常寛 編曲: 斉藤伸也(ONIGAWARA)
5.「Love’s Moment」 / 椿鬼奴
作詞:椿鬼奴 作曲:堂島孝平 編曲:冨田謙
6. 「NEO POSITION」 / 伊礼彼方
作詞・作曲・編曲: ARAKI
7. 「Dirty Angel」 / 暗黒天使
作詞:暗黒天使・ニンドリ 作曲・編曲:ニンドリ
8. 「T.T.S」 / とくこ
作詞:とくこ・PARKGOLF 作曲・編曲:PARKGOLF
9. 「若者のすべて」 / 川島明
作詞・作曲:志村正彦 編曲:PARKGOLF
10. 「14時まえにアレー」 / 藤井隆
作詞:YOU 作曲・編曲:パソコン音楽クラブ
11. 「Right Here, Right Now」 / 早見優
作詞・作曲: GIORGIO MORODER 編曲:冨田謙

■イベント情報
『「SLENDERIE ideal」発売記念インターネットサイン会』
11月14日(土)19:00〜/フットボールアワー 後藤輝基、椿鬼奴 
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11月21日(土)18:00〜/麒麟 川島明、椿鬼奴、とくこ
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11月22日(日)20:00〜/暗黒天使、藤井隆、 レイザーラモンRG
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『「SLENDERIE ideal」発売記念“対1オンライントーク会”』
11月22日(日)15:00〜
<出演>
暗黒天使、藤井隆
詳細はこちら

SLENDERIE RECORD公式HP

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