香取慎吾は逆境でこそ遊び心を忘れないーー秋の到来と共に解き放った、ファッションへの欲望

 芸術の秋――。美術館で絵画を見たり、自ら絵筆を取ってみたり……だけではなく、自分自身を彩るファッションも、ひとつの芸術活動だ。自ら描いたアートピースをモチーフに、ファッションブランド『JANTJE_ONTEMBAAR(ヤンチェ_オンテンバール)』をディレクションしている香取慎吾の活躍を見ると、ますますそんな気分になる。

 2020年、新型コロナウイルスの影響で、私たちのファッションに対する気持ちは大きく変わった。ステイホーム中の断捨離で、服をたくさん捨てたという人も少なくなかったはず。季節が変わっても、外に出る機会が少なく、新しい服を買う気持ちも高まらない。“あの場所に行こう”、“あの人に会いに行こう”というワクワクが、新しい服に手をのばすきっかけをくれる。ファッションとは、気分を纏うもの。そんなことを改めて実感した期間でもあった。

 そんなコロナ禍に2020-21年秋冬のコレクション作りをした香取は、『madame FIGARO.jp』のインタビューで、社会の変化に伴ってアートピースのテーマを「リボーン」「デカダンス」から「リー」「プレ」へ変更したことを明かす。

 この混乱した状況での制作だからこそ、今までの“絵をそのまま使わなければ”という気持ちを乗り越え、絵を小さくしてみたり、解体してみたりと、チャレンジングな試みもできたという。身動きがなかなか取れないからこそできた、新たな自由な発想。「これまで以上にやりたいことができました」という言葉が出るのは、まさにアーティストだ。

 とはいえ、香取も「家で過ごした間は、正直、少しファッションから離れました」と自粛期間中を振り返る。“服バカ”を自称するほど、ファッション好きな香取でさえ、このコロナ禍はファッションとの距離が空いたと聞くと、それが一般的な人にとってどれだけ大きかったことかを再認識せざるをえない。

 「このままリモートを意識した服に本気でみんながシフトするのかと思ったら、正直“嘘だろ?”となりましたけどね(笑)」と自粛期間中を振り返る香取。リモート会議でカメラに映る上半身だけジャケットを着て、映らない部分は下着に……なんていう笑い話もよく耳にしていた。

 だが、それを意識した服が流行したときに「そんな社会になっちゃうの? みんなパンツもスカートも要らなくなるの? と危機感を感じました」という香取。もしかしたら、もう少し自粛期間が長くなっていたら、私たちの暮らしはファッションを楽しむ心をすっかり忘れてしまっていたかもしれない。

 しかし、「また外出が少しずつ増えて、服を選ぶようになって、あらためて僕はファッションが好きなんだなって気づきました」と続いて安心した。涼しくなってレイヤードも思う存分楽しめる季節になった。今年の秋冬はより一層換気を心がけることから、暖房が効いた室内でも、ニットやファー、レザーなど厚手素材のアイテムを爽やかに着こなせるのではないだろうか。

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