ハロプロ、坂道、WACK……アイドル三大勢力、人気の秘密は映像面にあり? 特性異なるアプローチ術に迫る

2010年代を染め上げたBiS、BiSH

 ハロプロ勢、AKB48グループ、坂道シリーズ、スタダ系、エイベックス系、さらにロコドルと呼ばれる地方アイドルも続々と生まれ、2010年には『TOKYO IDOL FESTIVAL』が初開催。この頃からアイドル戦国時代と呼ばれるようになったが、お揃いの制服衣装を着た王道系、正統派系のアイドルが主流のなか、カウンター的に飛び出してきたのがBiSだ。

 今さら説明するまでもないが、ロック系のサウンド、野外での全裸風なMV、過激な言動などが衝撃を与え、研究員と呼ばれるファンの存在も含めてアイドル界に熱風を巻き起こした。楽曲面は、ロック系グループが乱立するほどフォロワーを生んだ。カバー曲ばかりを披露している地下(地底)アイドルの多くはBiSの代表曲「nerve」(2011年)を“持ち歌”にし、カバー系アイドルが集まるイベントでは、1日に何度も同曲を聴くことも少なくなかった。

 2014年の第1期BiS解散後、プロデューサーの渡辺淳之介が立ち上げた音楽プロダクションがWACKだ。2015年に結成されたグループ・BiSHは「楽器を持たないパンクバンド」を標榜し、今や日本の音楽シーンを代表するアーティストへと駆け上がった。渡辺の固定概念にとらわれないアイデアの数々も話題を呼び、2010年代のアイドル界はWACKが染め上げた。

WACK系はジャンルをツイストさせる

 WACK系の映像アプローチがこれまたおもしろい。第1期BiSでは、『劇場版 BiSキャノンボール2014』(2015年)と題したドキュメンタリー映画企画を仕込み、カンパニー松尾、バクシーシ山下といったAV監督を制作者として起用。以降、WACKのオーディション合宿の密着映画シリーズなどでもカンパニー松尾らAV監督が、メンバーやアイドル候補生の動向を追いかけている。「アイドル×AV監督」という、今までのアイドル界では絶対ありえなかった構図を成り立たせた。

劇場版BiSキャノンボール2014 冒頭20分公開!

 一方で、映画『遭難フリーター』(2007年)の岩淵弘樹、映画『さよなら、みなみ』(2012年)のエリザベス宮地といった若手の映像作家も名を連ねている。ふたりは、WACK系のアイドルの撮影を通して、自分の殻を破ろうと苦闘。『劇場版 アイドルキャノンボール2017』(2018年)は、アイドルたちの闘いのみならず、岩淵監督、宮地監督のジリジリとした気持ちが吐き出される姿も活写されている。

映画『劇場版 アイドルキャノンボール2017』特報

 『水曜日のダウンタウン』(TBS系)でのクロちゃん(安田大サーカス)のアイドルプロデュース企画から生まれた豆柴の大群も然りだが、WACK系は、誰も踏み出さなかったことに果敢に挑戦したり、多種多様なジャンルをツイストさせることで化学反応を発生させたりして、“事件”を起こしてきた。

 一方で、映像作品の内容とBiSHらの楽曲の共通点は、物事がうまくいかない悔しさ、挫折、悩み、息苦しさ、そして人として成長する喜びなど、普遍的かつ感情に訴えかけるテーマを生々しく焼き付けているところ。破天荒に思えて、実は誰にでも思い当たるものが込められているからこそ、多くの人の心に刺さる。そのあたりがアプローチの特徴の一つとなっている。

 坂道系、ハロプロ系、WACK系の勢力図を書き換える新たなグループは現れるのか。地上、地下問わずこれからもアイドル界を注視していきたい。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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