LiSA『鬼滅の刃』主題歌含めたアルバム&シングルでチャート首位独占 深みあるエレクトロで開拓した新機軸

 と、ここまでは「ラウドなロックを歌うアニソンシンガー」としてLiSAを紹介してきたが、本作で興味深かったのはまた別の側面である。アルバムを聴いてちょっと意外にさえ思えたのは、「わがままケット・シー」や「unlasting」のエレクトロニックな路線だ。ロックとのミクスチャーとしてではなく、エレクトロニックなサウンドを真正面から鳴らしたこの2曲は、サウンドの傾向からいえば異色だ。かつバラードとして聴いても、双方とも譜割りに見られるリズムの処理に、これまでとは異なる新機軸を感じられる。三連符のフィーリングをうまくいかしたメロディとビートとの緊張関係には聴き入ってしまう。ちなみに「unlasting」は2019年にシングルとしてリリースされており、そちらにカップリングとして収録されている「KALEIDO」もエレクトロ・アコースティックなアレンジが瑞々しいポップソングに仕上がっている。

LiSA 『unlasting』 -MUSiC CLiP YouTube EDIT ver.-

 特に「わがままケット・シー」は、The LasttrakのTakachenCo.の言葉を借りれば「90年代後半のACOを彷彿させるシンフォニックエレクトロニカポップ」で、たしかにビートの音色選びやシンプルなメロディの反復などの構成に、たとえば砂原良徳が手掛けたACOのヒット曲「悦びに咲く花」あたりを彷彿とさせるものがある。

 ただし激しく歪んだ打ち込みのビートが中盤のクライマックスを演出するあたりは現在的。ビートのグルーブ自体は淡々とストレートでさほどR&Bテイストはないが、裏拍に配されパーカッシブに響く〈ケット・シー〉の反復が全体の雰囲気を決定づけている。個人的には図抜けた一曲と言いたいところ(もちろん、他の曲が劣っているというわけではない)。

 とはいえ、これらの2曲がアルバムのなかで浮いてしまうこともなく、問答無用のアンセムと化した「紅蓮華」をはじめとするキャッチーな楽曲に対するアクセントとして効いている。全体を通して、2018年にベスト盤を2枚同時リリースしてキャリアに一区切りをつけたあとの一枚として、聴きどころに欠かない仕上がりだ。

LiSA「わがままケット・シー」

■imdkm
1989年生まれ。山形県出身。ライター、批評家。ダンスミュージックを愛好し制作もする立場から、現代のポップミュージックについて考察する。著書に『リズムから考えるJ-POP史』(blueprint、2019年)。ウェブサイト:imdkm.com

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