“梨泰院ロス”を癒すサウンドトラックと豪華ブックレット ドラマの美学が随所に感じられる作品に
今年に入って韓国のテレビドラマ、いわゆる“韓流ドラマ”が日本で再び人気を集めているのはご存じだろう。見ごたえのある作品が数多く登場してきた理由のひとつとして、本国だけの放映に終わらず、積極的に海外に販売することで十分な制作費を確保できたという点があげられる。シナリオや映像といった分野で有望な若手が続々登場し、主役を張れる役者も増えてきたことなども昨今の盛り上がりの背景にあるとはいえ、ドラマ制作における適材適所を実現するには、やはり資金の確保が最優先なのは間違いない。
日本で大人気の『梨泰院クラス』は、テンポのいいストーリー展開や洗練された演出と映像で高く評価されているが、オリジナルサウンドトラック(以下、OST)も相当充実しているのが大きなポイントだ。本作の場合はNetflixとの独占配信契約でじっくりと細部を作り込めるようになったのか、ドラマ本編とともに挿入歌やBGMにも心血を注いでいる。
2020年の夏、日本でも『梨泰院クラス』のOSTがリリースされた。通常は1枚か2枚組で発売するケースが多い韓国ドラマのOSTが、本作は4枚組という圧倒的なボリュームで出したことにまず驚く。それほど捨て曲がなく、作品のクオリティに自信があるということだろう。
それでは『梨泰院クラス』OSTの中で注目すべき楽曲をいくつかピックアップしてみたい。ボーカル曲でまず紹介したいのは「Still Fighting It」だ。アメリカの実力派シンガーソングライター、ベン・フォールズが2001年にリリースした楽曲で、本作ではイ・チャンソルという男性シンガーがリメイクしている。
ドラマでは主人公(パク・セロイ)の父親の葬儀で流れ、とても切なく響く。英語の歌詞は一部を日本語に訳すとこの通りだ。「おはよう息子よ/いまから20年後/君と座ってビールを飲むことがあるかな」「いいことを教えてあげる/年月は過ぎても/みんなまだ戦っている/戦いは続いて行くんだよ」「そして君は何もかも僕にそっくりだ/ごめんね……」。
今回のOSTの中で海外の曲をカバーしたのはこの曲のみ。オリジナル曲だけで構成したほうが手続き的に楽であるにも関わらず、わざわざ制作サイドが「Still Fighting It」を選んだのは、それほど『梨泰院クラス』に必要不可欠な曲だということに他ならない。つまり、親子の絆の強さや主人公の闘志を伝えるにはこの歌しかなかったのだ。
R&BシンガーのGahoが歌う「はじまり」も重要な1曲である。アメリカンハードロック風の軽快なサウンドに乗せて歌われるのは、“明るい未来と強い意思”。「望みどおりにすべて手に入れるんだ/それこそが僕の夢だから」や、「耐え抜いて/僕の夢はもっと強くなるから」といったポジティブなフレーズはこのドラマのテーマそのもので、劇中で繰り返し流れるのもうなずける。