さなり、新たな扉を開いて成長し続ける17歳のドキュメント 力強く言葉届けたLIQUIDROOMワンマン公演レポート

さなり、力強く言葉届けたLIQUIDROOMワンマン

 バンドメンバーが再びステージに集結し、後半戦を封切ったのは「キングダム」だ。クリーンなイメージが強いさなりだが、この曲ではダークな面を魅せつける。歪んだギターと共に香る色気は、彼の新たな可能性を感じさせた。

 かと思えば、「Find Myself」では再び柔らかい歌声を力強く響かせる。続く「Nights」では客演にeillが登場し、抜群のコンビネーションでステージを展開。以前のさなりであれば自分が歌わないところで手持ち無沙汰になりそうなものだが、この日の彼は全くそんな様子がない。音に身を任せ、コラボレーションを楽しみ、“一緒に”曲を魅せていた。

 「最後にあの曲を歌って終わりたいと思います」と告げ、ラストナンバーの「Hero」へ。ファンのひとりひとりに視線を配り、時にはカメラへも視線を落とす。余裕をもってパフォーマンスする姿は、もっと大きなホールでライブをする姿も、何年後も歌い続けている様も容易に想像させた。初のバンドセットで全12曲をやりきり、新たなステージへと進む覚悟を示したのだ。

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 本編が終わった後も拍手が鳴り止むことはなく、抑えきれなくなったファンからは「アンコール」の声も飛ぶ。ほどなくしてサイドステージに現れると「もし知っていたら一緒に歌ってください」と告げ、導かれたのは彼きってのキラーチューン「Prince」なのだから、本当に“あざとい”人だ。何回も歌ってきた1曲を楽しそうに歌いあげると、ライブナンバーの「BRAND-NEW」へ。バンドメンバー、ファンと共に楽しみ尽くし、遅めの夏休みを満喫したのだった。

 今までのさなりが、適当に音楽をしていたわけではない。それでも、パンデミックは明らかに彼を次なるフェーズへと進めていた。ただ歌うだけじゃなく、届くものを。どうせ届けるのだとしたら、隅々まで表現の意識が行き渡ったものを。17歳の夏、彼は第二章の扉を開けたのである。そういえば最近、さなりは髪を赤く染めていた。赤は「火」の色であり「奮起し自ら立つ」色だ。自身を奮い立たせ、次なる時代を切り開いていく彼が今から楽しみでならない。

■坂井彩花
ライター/キュレーター。1991年生まれ。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。Rolling Stone Japan Web、EMTGマガジン、ferrerなどで執筆。Twitter

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