SARD UNDERGROUNDがZARDを歌い継ぐ意義 坂井泉水のメッセージを未来に託す唯一無二の存在
SARD UNDERGROUND。その存在を知りつつも「手を伸ばすのが怖い」、それが正直な気持ちだった。なぜならZARDは、筆者にとって唯一無二、永遠の存在であるから。
一方で、近年はZARDを知らない世代と出会う寂しさもひしひしと感じていた。楽曲は残る。しかし、坂井泉水という女性の存在、彼女の声に彩られた青春時代が、少しずつ過去になってゆく。
2021年2月、ZARDは30周年イヤーを迎える。容赦なく流れていく時間のなか、今、SARD UNDERGROUNDが「ZARD」を歌い継ぐ意義とは。
ZARDを愛し、永遠に想い焦がれる同志
神野友亜(Vo)、赤坂美羽(Gt)、杉岡泉美(Ba)、坂本ひろ美(Key)の4人からなるSARD UNDERGROUND。2019年9月18日、アルバム『ZARD tribute』でデビューし、現在までにシングル『少しづつ 少しづつ』『これからの君に乾杯』をリリース。シングル曲にはいずれも、坂井泉水による未公開歌詞が使用されている。
最年長の坂本が生まれたのは、1995年12月。『愛が見えない』『サヨナラは今もこの胸に居ます』をリリースした夏が過ぎ、年が明けると瞬く間に「マイ フレンド」が大ヒット。街じゅうにZARDの音楽が流れていた、あの冬だ。今でも、ありありと思い出すことができる。
最年少、2000年生まれの神野は『Get U’re Dream』とほぼ同時期に誕生している。坂井と同じ時間を生きたのは、わずか7年。そんな彼女が、1996年3月リリース「DAN DAN 心魅かれてく」の歌詞の魅力を熱く語る姿は不思議でもあり、頼もしくもある。
SARD UNDERGROUNDは我々と同様、ZARDを敬愛し、永遠に想い焦がれる同志だ。
『ZARD tribute Ⅱ』忠実ながらも、瑞々しさのあるカバー
10月7日にリリースされる、2ndトリビュートアルバム『ZARD tribute Ⅱ』。サウンドに、より一層“ZARD感”が出ている、というのが最初の印象だ。正直なところ『ZARD tribute』や過去のライブでは、まだ“コピーバンド”の域を脱していないのでは、と感じる部分もあった。本作では個々のスキルがめざましく向上し、まさに「トリビュートバンド」へと進化を遂げている。歌唱、演奏する表情には自信が窺え、バンドとしても一皮むけた。サウンドには「ZARDのトリビュートバンド」という、誇りと覚悟を感じる。
前作アルバムを“ZARD入門編”とするならば、今作はZARD初級~中級編といったところだろうか。「なぜシングルカットされなかったのだろう?」と不思議に思っていた名曲も複数、収録され、リスナーをみるみる青春時代へと引き戻す。
もちろんリアレンジは行なっているが、楽曲のイメージや世界観が損なわれることはない。大切に演奏し、歌っていることが分かる。原曲へのリスペクトを感じる実直なカバーだが、不思議な新鮮さ、瑞々しさがある。
ZARDのサウンドは、しっかりした打ち込みとシンセサイザーの響きが与える“90年代感”が印象的だ。SARD UNDERGROUND版では、ドラムの打ち込みはやや軽め。ギター、ベース、キーボードと、メンバーの音を活かすことで、疾走感や清涼感はそのままに、現代っぽさが生まれている。
1曲目「君に逢いたくなったら…」。何度も聴いたイントロ。思い出が鮮やかに蘇る。本作中で、もっとも忠実なカバーだと感じた。
〈君に逢いたくなったら… その日までガンバル自分でいたい 青く暮れかけた街並み また思いきり騒ごうね〉
いつだってすぐには飛んでいけない2020年。この曲、この歌詞が「今」このタイミングで再び世に放たれることには、必ず意味がある。きっと、誰かの心を支えると思う。
〈「大丈夫だよ」という君の言葉が 一番大丈夫じゃない♡〉
そんな歌詞もまた、明日をも知れぬ混沌とした時代を生きる、我々の心に響く。
サウンドに“90年代感”をひしひしと感じる「あなたを感じていたい」。ポケットベルのCMを思い出す人も多いだろう。当時を知らない彼女たちだが、楽曲が持つ独特の空気をしっかり伝えている。
大人の切ない恋を歌うには、まだ声に初々しさと幼さが残るが、これは今の神野だからこその貴重な表現だ。
アニメ『中華一番!』の主題歌として幅広い世代の記憶に残る「息もできない」には、こんなフレーズがある。
〈理解されなくても 絶対 妥協しないでね〉
筆者は今も、この言葉に支えられ、生きている。日常的で細やかな描写を用い、繊細な恋心を描きながらも、生きていくためのチカラになる言葉、普遍的なメッセージがあちこちに散りばめられている。それがZARDの楽曲だ。
坂井泉水の描いた歌詞、メッセージを、未来へと繋ぐ。そこに、SARD UNDERGROUNDがZARDを歌い継ぐ、たしかな意義がある。