FANTASTICS『Winding Road~未来へ~』でより深みのあるグループへ 歌とMVから伝わる、優しく包み込むような表現力
MVも“二面性”をテーマとしたストーリー性のある映像となっている。1番のAメロ、Bメロでは椅子に座り、浮かない表情でうなだれるメンバー達の姿があるが、1番のサビでは彼らの前にもう1人の“ポジティブな自分”が現れる。ネガティブな思考にとらわれて立ち上がることができない自分を奮い立たせるように、時に情熱的に、時に少し肩の力を抜いて歌い踊る、もう1人の自分ーー。その姿に心動かされ、徐々に前向きになっていく様が描かれている。1人2役のダンスシーンは、シンメントリーながらも、自分との掛け合いを楽しみながら踊っている姿が見どころ。澤本曰く「悩んでいる自分と励ます自分の場面はそれぞれで考えていて、表情もひとりひとりのもどかしい思いが詰まっています」(引用:FANTASTICS、『Winding Road~未来へ~』で挑んだ味わい深いパフォーマンス 配信ライブの手ごたえや新たなビジョンなど語る)とのことで、ダンスはもちろん、メンバー全員が芝居を経験しているFANTASTICSならではの表情の作り方や仕草も、この曲をドラマティックに彩っている。
なお、今回の振付は、MV(リード曲)での振付は初となる、最年少パフォーマーの木村慧人が担当。ボーカルが一言一言を丁寧に届けるように、パフォーマーも大振りかつストレートなダンスで歌詞を表現している。これまでのFANTASTICSの振付は世界がダンスリーダーとして監修していたそうだが、今回の振付は「世界さんが『FANTASTIC 9』で見やすい振付けをしていたので、そのイメージが今作にも表れていると思います」(引用:FANTASTICS、『Winding Road~未来へ~』で挑んだ味わい深いパフォーマンス 配信ライブの手ごたえや新たなビジョンなど語る)と語るように、木村が自ら学び、生み出したもの。もともとEXPG STUDIOのインストラクターをしていた世界と、その教え子だった木村という関係性があるだけに、グループ内で“FANTASTICSらしさ”が継承されていることも、ファンにとってはたまらないポイントではないだろうか。
さらにラストサビでは、統一されたモノトーンの衣装でパフォーマンスしている8人の背後に、個性豊かなメンバー達を象徴するような8パターンの椅子が登場。彼らの前には、かけがえのない9人目のメンバーのため、あるいはこの曲を受け取るリスナーのための1脚の椅子があり、そこに語りかけるように〈それでも LaLa 僕は歩いてる〉と告げる八木のアカペラが、心地良い余韻を残している。
スタイリッシュでフレッシュなイメージが強かったデビューシングル『OVER DRIVE』から、約2年。FANTASTICSはなんて深みのあるグループになったのだろう。全力でパフォーマンスすることで見ている人に元気を与えていた時期を経て、言葉で、振付で、表情でしっかりと想いを届け、立ち止まっている人の手を引く。自分達が苦悩しながら夢を掴んできたからこそ、弱った心に優しく寄り添える。そんなFANTASTICSの深い愛情が『Winding Road~未来へ~』からは溢れている。
■斉藤碧
エンタメ系ライター。
ダンス&ヴォーカルグループ、アイドル、ロック、ヴィジュアル系、俳優などジャンルレスで執筆中。V系雑誌「Stuppy」では編集も担当。
Twitter:@stmdr38