何者にも変異する俳優 菅田将暉にとっての“音楽” 人間としてのエネルギーをぶつける歌に込められた力

自身の作詞曲、数々のコラボレーションも話題に

 彼の歌唱の強みは、低音域でも失われないクリアな響きと、聴き手に迷いなく届く、太くまっすぐな声。ファルセットもナチュラルで、音域も広い。日本語を大切に歌うことで、歌詞がしっかり伝わるのも、菅田の歌唱の魅力だ。

 父親の影響を受け、吉田拓郎の大ファンだという菅田。日常の小さなことを、飾らぬ自身の言葉で歌にしたためるフォークソング、それが吉田拓郎の世界観だ。そうしたルーツを持つからか、菅田は、日常のスキマをすくいとり、人間の真理をついてくる作家との相性が良い。そして菅田自身の作詞曲も、独自の着眼点が面白く、それでいて普遍的だ。

菅田将暉 『さよならエレジー』

 「さよならエレジー」を提供した石崎ひゅーいが作曲を、菅田が作詞をつとめた「いいんだよ、きっと」という楽曲がある。耳なじみが良く、男女問わず歌いやすいキー。ほんの少し昭和の香りが漂うメロディと、菅田の声がマッチしている。

 なんといっても歌詞が良い。偶然見かけた男の子の姿から妄想を膨らませて書いたという歌詞には、日常めいた歌詞が並ぶ。歌手は必ずしも、カッコイイことや壮大なことを歌う必要はない。感じたことを自由に歌い、残せば良い。些細なことを歌にし、メッセージとして放つことができる菅田の感性は、稀有なものだと感じた。

「いいんだよ、きっと」

 2020年に入ってからは、Creepy Nuts、石崎ひゅーい、OKAMOTO’S、中村倫也、とコンスタントにコラボ作品をリリースしている。菅田は、置かれた環境にスッと染まってゆくのがうまいと常々感じる。けれど、相手に合わせるのでも、楽曲を演じるのでもない。「菅田将暉」という人のまま、ナチュラルに融和する。これこそ菅田特有の、「変異」の正体なのかもしれない。

 7月1日、Creepy Nutsとのコラボ曲「サントラ」をリリース。菅田のラジオにCreepy Nutsがゲスト出演したことをきっかけに話が盛り上がり、コラボレーションが実現した。3人は『ミュージックステーション』にも出演、音を全身で楽しみ、無邪気な表情を見せる菅田が印象的だった。

Creepy Nuts × 菅田将暉 / サントラ【MV】

 同じく7月には、既知の仲である石崎ひゅーい、そして亀田誠治とともに中島みゆきの名曲「糸」をカバー。声に深みを持たせたまっすぐな表現には、強さと優しさがある。原曲へのリスペクトを感じる、実直なカバーだった。

「糸」

 8月には、OKAMOTO'Sとのコラボによるシングル「Keep On Running」を配信リリース。CMにも起用されている同曲は、キャッチーなサビを持ちつつ、サウンドにはOKAMOTO'Sらしいトガリがあり、どこかレトロな匂いを感じるロックナンバーに仕上がっている。菅田とOKAMOTO'S、双方の魅力が引き出された化学反応。「まさにコラボ」という1曲だ。

菅田将暉×OKAMOTO'S 『Keep On Running』

 同じ事務所の中村倫也とのコラボシングル「サンキュー神様」の配信リリースも話題になっている。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、エンターテインメントの動きが鈍くなっていることを感じた菅田が「自分たちにできることはないか」と、中村に投げかけたことから実現したコラボ。同事務所メンバーでのコラボは楽曲だけにとどまらず、ストーリー仕立てのMVには松坂桃李が、コーラスには木村佳乃とchayが参加している。

 鬱屈とした日々に寄り添いながらも、すべてを吹き飛ばしてくれるような爽やかさをもつ同曲。やや字余りの歌詞が、より一層メッセージ性を強くする。菅田特有の太くまっすぐな声と、中村の甘く包み込むような声は、しっかりと聴き分けられるほど異なるのに絶妙に融合している。

「サンキュー神様」

 数々のミュージシャンとのコラボレーションを実現していく姿には、彼の人柄をも想像させる。菅田将暉は音楽を愛し、音楽の前にはただただ無垢な青年なのだと感じる。

 俳優としての彼には、今後もその役に心揺れ動き、ときに心乱されることもあるだろう。それでも、歌手・菅田将暉のことは、これから先もずっと、信じて愛していけると思った。

■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。
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