『BSいきものがかり DIGITAL FES 2020 結成20周年だよ!! 〜リモートでモットお祝いしまSHOW!!!〜』
いきものがかりが届けた“20年分の笑顔と感謝” 森山直太朗、Creepy Nutsらと新たな一歩を踏み出したデジタルフェスを観て
感動に包まれたイベントの雰囲気を一変させたのは、どぶろっく。「この歌を素直になれないすべての女の子に捧げます」((江口直人)と、ドヤ顔で「もしかしてだけど」を歌い上げる。「ある研究者の話では、“いきものがかり”を好きな女はスケベが多い」というアドリブを入れ、水野、山下にコーラスと手拍子を要求。江口の「俺たちも、いきものがかりの弟分、“ふとももがかり”としてやらしてもらってます」という挨拶から、とりかえしのつかない過ちを歌にした「やらかしちまった」、愛する人の胸への愛着をテーマにした「僕なりのプロポーズ」などのネタソングを次々と披露。下ネタと“あるある”満載の名曲に拍手喝采!
いきものがかりの“結成20周年スペシャルトーク”として、『100日後に死ぬワニ』とのコラボ、新事務所MOAIの設立などについて語り合った後、森山直太朗のステージ——と思いきや、『もしも…こんないきものがかりフェスがあったら…』と題されたコーナーへ。ギターの弾き語りで、(リアルタイムでTwitterをチェックしながら)森山の原点とも言えるデビュー当時の楽曲「レスター」などを披露。画面がフリーズしたマネ(動きを止めるだけ)や軽妙なトークを挟み、どこからともなく聴こえてきたピアノの音に誘われるようにスタジオに移動、美しくも切ないファルセットから名曲「夏の終わり」へ。豊かな叙情性をたたえた音楽空間へとオーディエンスを誘う。
さらに、どこにでもある何気ない風景と失恋したばかりの男の思いを重ねた代表曲「どこもかしこも駐車場」を歌った後、「せっかくお呼ばれしているこということで、何か一緒にやりたいなということで」と吉岡を呼び込む。
「大学の時に歌で悩んで、生きてる心地がしなかったときに、『生きとし生ける物へ』を聴いて、“私、生きてるんだ”と思ったんです」(吉岡)というエピソードを披露し、2人で「さくら」をデュエット。この日だけの超レアなコラボレーションに、Twitter上でも「めちゃくちゃええ」「ハモり鳥肌たつ」などのコメントが並んだ。
ラストは「最悪な春」。緊急事態宣言中の不安、葛藤、この先にあるはずの希望を綴ったこの曲は、今回のイベントのハイライトの一つだったと思う。
秦 基博、上白石萌音、Superfly、ゆず、明石家さんまによる“結成20周年おめでとう”コメント、Mr.シャチホコのものまねを挟み、いきものがかりのライブがスタートした。オープニングは、路上ライブ時代、メジャーデビュー、横浜スタジアムライブなどの映像。「久しぶりのライブ、一緒に楽しもうね!」と吉岡が笑顔で語り掛け、「笑ってたいんだ」へつなげる。バンドメンバーと目を合わせ、カメラに向かって気持ちよく歌を発する吉岡、アコギのストロークで楽曲のボトムを支える山下、派手なギターソロを奏でる水野からも、久々の生演奏を全身で楽しんでいることが伝わってくる。さらに〈Ah 夢に見てた こがれていた キミがいる〉という歌詞からはじまるアッパーチューン「キミがいる」、活動再開後にリリースされた応援ソング「アイデンティティ」といった色とりどりの楽曲によって、大衆性と普遍性を兼ね備えたポップワールドを体現していく。
恋の始まりを瑞々しく描いた初期の名曲「コイスルオトメ」をエモーショナルな演奏で披露(ツアーのために準備したアレンジ!)した後、再び森山直太朗が登場し、「帰りたくなったよ」をセッション。森山と吉岡が声を合わせ、〈帰りたくなったよ 君が待つ家に〉というフレーズを共鳴させる場面は、“20周年を祝う”今回のイベントを象徴していた。
STAYHOME期間を振り返り(山下「断捨離しましたよ」、吉岡「カレー作ってインスタにあげたらほめられた」、水野「生活は変わりませんでした」)、「ここから盛り上がりゾーン。お手持ちのタオルなどで盛り上がって!」(水野)と「ブルーバード」を放ち、ライブはクライマックスに突入。緑黄色社会の長屋晴子とともに「気まぐれロマンティック」を高らかに歌い上げ(サビのお揃いの振り付けがキュート!)、「こんななかでも新しい一歩を踏み出せたことが、すごく嬉しいです」(吉岡)というコメントとともに奏でられた「YELL」で本編は終了した。
桜井和寿(Mr.Children)に扮したMr.シャチホコと水野、山下、吉岡のトークの後、再びステージに登場した3人が演奏したのは、「20年前からある、いきものがかりにとってはもっとも古い曲」(水野)という「からくり」。ノスタルジックな旋律、〈どんな時も側にいてよ 二人の日々が星になるように〉という歌詞がひとつになったこの曲は、まさにいきものがかりの原点だ。さらに最新曲「きらきらにひかる」(ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』主題歌)から、「一緒に盛り上がりましょう!!」(吉岡)と「じょいふる」を響かせ、初のデジタルフェスはエンディングを迎えた。
20年のキャリアを代表する楽曲を“2020年のいきものがかり”が表現するーーこれこそが、今回の配信ライブの醍醐味だったと思う。J-POPの王道を目指し、00年代以降の音楽シーンのど真ん中で数々のヒット曲を生み出してきた、いきものがかり。放牧、集牧、20周年という変遷のなかで3人は、日本のポップスの黄金比を再び掴みつつある。そんな手ごたえがしっかりと感じられる、きわめて有意義なイベントだった。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。
■番組概要
『BSいきものがかり DIGITAL FES 2020』
放送日時 :2020年10月18日(日)22:00~24:30
放送局 :BSフジ
4時間半におよぶデジタルフェスの模様を2時間半に凝縮放送
『BSいきものがかり』公式サイト