ムーンライダーズ、圧巻のバンド演奏で聴かせる瑞々しいパフォーマンス 40周年迎えた『カメラ=万年筆』再現ライブレポート

 8曲目の「幕間」ではムーンライダーズとゆかり深い佐藤奈々子がスペシャルゲストとして登場。赤いドレスに身を包み、変わらぬアンニュイなウィスパーボイスで詩を朗読した。妖艶なエロキューションの中にも純粋さが滲む声は耳に心地よい。アルバムでは電話越しの声が録音されていたが、この日のボーカルパートは生歌唱で、13曲目の「欲望」では慶一とのデュエットも披露した。

 個人的に最も心揺さぶられたのは、武川雅寛がボーカルをとる「水の中のナイフ」。この日は病気の影響もあってか、声に往時のような調子はなかったけれど、彼が歌う姿は、どんな技量をも凌駕する力と熱さに満ちていて、命の輝きを感じた。チャットルームを見ると同じ感想を抱いたファンが多かったようで、温かい声援が次々に飛んでいた。

 彼とバンド内ユニット「ガカンとリョウメイ」をやっている良明が、ギターソロを弾きながら武川に笑顔で目配せしている様子も胸熱。

 合間にはメンバー同士が和やかに会話する時間もあり、各々が久しぶりのライダーズを楽しんでいることが伝わってくる。その中でドラムスの夏秋文尚が着ているジャケットが、鈴木慶一が40年前に着ていたものだということが明かされたりも(ご本人は今は着られないそうです)。

 ミニコント(ボケて同じメンバーの紹介を何度も何度も繰り返す)もぶっ込んだラストには、ボブ・ディランの「Subterranean Homesick Blues」のMVのごとく、慶一が告知の書かれた画用紙を順繰りに見せていく。そこにはニューアルバムを制作すること、および10月31日に中野サンプラザでワンマンライブを行うことが書かれており、思わず叫んでしまった。

 来年リリースされれば、『ciao!』以来、10年ぶりのアルバムとなる新作の内容は慶一曰く「ポストパンクかな」だそうで、実験精神溢れるものになりそうな予感だ。

 いつでも「今」に従事して来たバンドが、このディストピア感溢れる現代に、どのようなサントラをつけてくれるのか、楽しみでならない。

■美馬亜貴子
編集者・ライター。元『CROSSBEAT』。音楽、映画、演芸について書いてます。最新編集本『ビートルズと日本〜週刊誌の記録』(大村亨著/シンコーミュージック刊)が発売中。

■セットリスト
ムーンライダーズ Special Live『カメラ=万年筆』
2020年8月25日(火)東京・渋谷クラブクアトロ
01.彼女について知っている二、三の事柄
02.第三の男
03.無防備都市
04.アルファビル
05.24時間の情事
06.インテリア
07.沈黙
08.幕間
09.太陽の下の18才
10.水の中のナイフ
11.ロリータ・ヤ・ヤ
12.狂ったバカンス
13.欲望
14.大人は判ってくれない
15.大都会交響楽

出演:ムーンライダーズ
(鈴木慶一/岡田徹/武川雅寛/鈴木博文/白井良明/夏秋文尚)
ゲスト:佐藤奈々子
演出:ムーンライダーズ/石原淳平(DIRECTIONS)

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