松村早希子の「美女を浴びたい」
RYUTist、最新作で試みたグッドミュージックの拡張 『ファルセット』に詰まった失われた“2020年の春”
そして、南波一海レーベルオーナーの元、沖井礼二・清浦夏実のTWEEDEESコンビによる「青空シグナル」から始まったRYUTistの「グッドミュージック」の拡張は、少し生真面目すぎるメンバーに背伸びを、との思いで名付けられた今回のアルバム『ファルセット』で全貌が明らかになりました。はじめに作家陣の名前だけを見た時は、何て豪華! と驚きましたが、ただ豪華なだけでなく、音楽家とアイドルが音楽そのもので繋がり、それぞれの解釈でRYUTistの世界観が表現されています。10代から20代へ移り変わる彼女たちの時間が、桜が咲き木々が芽吹く心弾む季節に乗せて描かれたアルバムは、本来なら今年の春に届けられる予定でした。初夏まで発売延期となりましたが、音楽の中に、失われた“2020年の春”が詰まっています。普通の日々が決して当たり前のものではないと、この時代の誰もが身を切られるほどの切実さで知ってしまった今、“日常”と“青春”は一層きらめいて見えます。
アルバム冒頭、蓮沼執太さんの「GIRLS」と「ALIVE」。難解なメロディとハーモニーを自身のものにし歌いこなすメンバーの声が、風通しよく響きます。元<HEADZ>レーベルメイト南波さんと蓮沼さんの信頼関係が、蓮沼フィルと4人のガールズの出会いに結びつきました。
メンバーを「全員の輝きがMAXで、きらめきが尋常じゃなく、直視できなかった記憶です」(*4)と語る柴田聡子さん作「ナイスポーズ」は、クリームソーダの泡のごとく弾ける青春感。配信ライブで観られた、ダンスの圧倒的可愛さにキュンキュンしました。
メンバーひとりひとりに電話インタビューし、4人の個性を落とし込んだKan Sanoさん作の「時間だよ」は、これまでになくセクシーで艶やかな表現に、少女と大人の間を揺れ動く危うさが現れています。
真面目に淡々と「良い音楽」をやっていたら、いつの間にか独自の位置にいたRYUTist。地元を大切にし、コツコツと地道に歌とダンスを頑張ってきた無欲でストイックな4人が、グッドミュージックを世界に向けて放つ存在へと成長した姿は、昔から見守られてきた方ほど感慨深いのではないでしょうか。
アクの強いキャラクターや派手なギミックで目立つのでなく、子供の頃から只々真面目にやってきた人が、シンプルに音楽の力で輝く姿は、うんざりすることばかりのこの時代に、一筋の希望を与えてくれるでしょう。
■松村早希子
1982年東京生まれ東京育ち。この世のすべての美女が大好き。
出典
*1:RealSound記事
*2:RYUTistカバー曲リスト
*3:横山実郁ソロインタビュー
*4:『ファルセット』ライナーノーツ