松村早希子の「美女を浴びたい」
RYUTist、最新作で試みたグッドミュージックの拡張 『ファルセット』に詰まった失われた“2020年の春”
蓮沼執太フィル、Kan Sano、柴田聡子、パソコン音楽クラブ、弓木英梨乃(KIRINJI)、シンリズム、沖井礼二、北川勝利、ikkubaru。Ginza Sony Parkの企画かと見紛うこの面子が集ったのは、新潟のアイドルRYUTistの最新作『ファルセット』です。
日本海と信濃川に挟まれた新潟島に張り巡らされた堀、堀端には柳がそよぎ芸妓が行き交う水の都、新潟古町。1964年東京オリンピックの都市開発ラッシュと同様、同年の新潟国体の頃にその堀は全て埋め立てられてしまいましたが、「柳都」という名を今に残しています。その新潟市中央区古町を元気にするため結成されたアイドルグループ、柳都+アーティスト=「RYUTist」。佐藤乃々子さん、宇野友恵さん、五十嵐夢羽さん、横山実郁さんの4人組。涼しげで爽やかでノスタルジックな音の響きが、メンバーのフレッシュな空気にぴったりです。
2011年、地元の音楽専門学校のオーディションに地元チアチームなどから応募したメンバーは、校内のスタジオで歌とダンスを毎日練習し、毎週日曜日は校舎1Fでライブする地道な活動を続けてきました。素朴でピュアでストイック、完全地元密着な彼女たちの人間性は、ここで育まれました。現在はメンバー自身も講師を務めています。真面目さが似合う新潟ろうきんや新潟県赤十字血液センターのCMへも出演しています。そんな彼女達とは対照的な黒髭長髪の名物ディレクター兼マネージャー安部博明さんと共に、地元ミュージシャンやDJの人脈をフルに生かし、新潟の地名や古町の情景が歌詞に登場する、ローカリズムが全面に溢れたコンセプチュアルな「グッドミュージック」を積み重ねてきました。
真夏の『TOKYO IDOL FESTIVAL 2013』、照りつける太陽の下で観た「ラリリレル」。キレキレのダンスの凛々しさと、たった十数分しかない持ち時間で異常にじっくりとゆるキャラを紹介する謎のMCが強烈でした。
2016年amiinA主催『WonderTraveller!!!act.5』(*1)では毛皮のマリーズ「ラストワルツ」カバーを披露。退廃的・耽美的世界観をシアトリカルに表現した攻めたステージの衝撃は今も胸の奥に残っています。自分の抱いていた「RYUTist=爽やかで明るい女の子たち」というイメージは彼女たちの一部分でしかなく、深く豊かな表現力を携えたグループであると気づかされました。(*2)
2016年からは、初期から彼女たちを見守ってきた元口ロロの南波一海さんの主宰レーベル<PENGUIN DISC>に参加、レーベルメイトのハコイリ♡ムスメとのコラボユニット・柳♡箱(ヤナギバコ)を結成します。人見知りでガツガツ主張しないRYUTistが、ハコムスのエネルギッシュでキャピキャピした空気感に影響され、徐々に仲良くなっていく過程を映したドキュメンタリーともとれる「ともだち」のMV。それまでカウントを乱さず正確に歌い踊ることを意識していた4人は、ハコムスの“感情が伝わってくる”ライブに影響を受け、自分たちの“気持ち”を曲で表現することを研究するようになったそうです。(*3)
お互いから良い影響を受け合う、女の子同士の魅力的な関係性を見せてくれた柳♡箱のシスターフッドは、2020年8月2日のリモート2マンライブで頂点に達しました。この8月で解散してしまうハコムスとの、最後の対バン。新潟と東京の離れた場所から、秋葉原カルチャーズ劇場のスクリーンにRYUTistの中継を映し、2組が同時に話すMCではどうしても2〜3秒の間が空いてしまいましたが、楽曲のコラボレーションになった途端、ダンスも歌声もぴったりと息が合い、まるで同じ場所にいる魔法みたいな時間でした。少女たちの限りある青春を刻みつけたライブ。ともだちとの出会いが、彼女たちの表現に与えた影響は計り知れません。