東山奈央が様々なキャラクターと歩み続けた10年ーーキャラソンベストから“表現者”としての軌跡を辿る
“真の原点”、水島精二と作り上げた朗読劇
また、今回は元々ユニットとして歌われた曲から、ソロバージョンを新録したものも2曲収録。そのうち本稿では、「一度だけの恋なら ~Reina Solo~」に注目したい。原曲は戦術音楽ユニット・ワルキューレとして歌った、TVアニメ『マクロスΔ』のOPを飾った曲。原曲でもソロパートにレイナΔらしさが十分存在していたが、新録されたソロバージョンでのレイナ感は段違い。頭サビ、〈君の中で遊ぼう〉の“あ”の発音ひとつだけでも、口の開き具合までもが容易に想像できるのだ。それが1曲を通して徹底されているうえ、レイナΔのトーンに合わせて歌からセリフへと切り替えられた部分までも存在するこのバージョンは、ただの歌い直しなどでは決してない。レイナΔのソロとして、改めて作り込まれた1曲だ
そして、通常盤と同時にリリースされた“アニバーサリースペシャル盤”では自身の出演作の主題歌3曲をカバー。加えて、収録された朗読劇「夢の軌跡」でも、彼女の表現を堪能することができる。
「夢の軌跡」についてはネタバレにならないよう内容への詳しい言及は避けるが、本作は複数のメインキャラクターを東山がひとりで演じ分けたもの。年齢感も近く、どのキャラクターも個性をいたずらに際立たせたような存在ではないが、それを声色だけではなく喋り自体のトーンや言葉の裏に内包したものも含めて演じ分けており、“声優・東山奈央”の表現の巧みさを存分に堪能することができる。
ちなみにこの朗読劇のプロデュースを担当したのは、アニメ監督・水島精二。実は彼が監督を務めた『鋼の錬金術師』が、東山が声優の道を志すきっかけとなった。そんな彼女の“真の原点”とも呼ぶべき存在とともに作り上げた、10年のキャリアを詰め込んだ20分あまりの朗読劇は、二重の意味で必聴と言えるだろう。
彼女が関わるキャラクターソングは、個人名義での表現とは違い、それぞれキャラクターとして歌う――いや、キャラクターとして“生きた”もの。彼女たちの心情吐露の手段のひとつとして、歌という形が取られているのである。本作は、20人以上の違う人生・命が宿った1枚であり、東山奈央が10年間、様々な作品で生き続けた結晶でもある。歌で、そして朗読で、彼女の表現にさらにどっぷり浸かってほしい。
■須永兼次(すなが・けんじ)
アニメソング・声優アーティスト関係を中心に活動するフリーライター。大学の卒論でアニソンの歌詞をテーマにするほど、昔からのアニソン好き。現在は『リスアニ!』『月刊ニュータイプ』や『TV Bros.』等に寄稿。