Beyoncè、J. Cole、Noname……シビアに時代と向き合い“今”を映し出す5曲をピックアップ

改めて実感する、シンプルかつ軽薄なヒップホップの楽しさ
Pussy Talk / City Girls feat. Doja Cat

Pussy Talk / City Girls feat. Doja Cat

 過去にはカーディ・Bやリル・ベイビーもフィーチャリングで参加し、ドレイクの大ヒット曲「In My Feeling」でもフィーチャーされた注目のラップユニット、City Girls。1年ほど逮捕されていたメンバーのJTが昨年秋頃に無事出所し、再びJTとヤング・マイアミの2人体制に戻ってから初のアルバムとなる『City On Lock』がサプライズリリース。相変わらずトゥワークが捗りそうな古き良きサウンドと、City Girlsの魅力である思わず笑ってしまうような強烈なパンチラインに溢れた威勢の良いリリックの数々が楽しめる快作となっている。

 その中でも特にパンチの効いた一曲が、「Pussy Talk」。現在進行系でポップチャート席巻中のドージャ・キャットも招集し、大胆極まりないタイトルが示す通り、女性としての自信を遺憾なく発露した痛快な一曲になっている。コーラスの「なぁ、この***は英語もスペイン語もフランス語も話せるんだよ(ハロー) / この***があればユーロもドルも円も稼げるんだ / この***でベントレーもローバーもベンツも買えるのさ/ この***で私の島までプライベート飛行出来るんだぜ(〈Boy, this pussy talk English, Spanish and French (Hello) /  Boy, this pussy talk Euros, dollars and yens / Boy, this pussy talk Bentleys, Rovers and Benz / Boy, this pussy fly private to islands, to M's〉』)」がインパクト大だが、全体に渡って、いかに自分の***が素晴らしいかを称える楽曲になっている。一聴すると軽薄極まりないという印象を受けるかもしれないが、一方で、金を持っていない男はNGという姿勢も見せており、あくまで主体はCity Girls側にある。サウスサイドによるシンプルなビートもトゥワーク映え抜群で、是非クラブで聴いて踊りたい1曲だ。

 前半の3曲で紹介した通り、現在は社会的なメッセージが強く求められる情勢だ。しかし、だからこそCity Girlsのようにパワーに溢れた、軽薄ながらもヒップホップの楽しさに溢れた存在も強く必要だと感じる。実際にヒップホップチャートで上昇中とのことで、やはりみんなこういう音楽も求めているのである。

City Girls - Pussy Talk Feat. Doja Cat (Official Audio)

ノンバイナリーという"曖昧な"在り方
Sorry Bro (I Love You) / Dorian Electra

Sorry Bro (I Love You) / Dorian Electra

 ノンバイナリーという言葉をご存知だろうか。性別認識を示す言葉の一つであり、自身のジェンダーを女性、あるいは男性のどちらかに限定しないという意味を持つ。「男性か女性の二択」で捉えるという既存の性別認識に対して、「そもそも、その定義自体を行わない」というのがノンバイナリーの考え方の前提にある。

 アメリカ出身のドリアン・エレクトラはそんなノンバイナリーのポップアーティストであり、中世のルネサンス・バロックをモチーフにしたアートワークや未来的なビジュアルなどを打ち出しながら、「自分にとって自然なポップミュージック」を創り上げている。その目的は“性別の二元性を無くす”より“曖昧なものにする”ことにあり、先日リリースされた「Sorry Bro (I Love You)」はBro=ホモソーシャルにおける男友達への恋愛感情を描いた楽曲だ。前回、Charli XCX(https://realsound.jp/2020/05/post-550130.html)の項で紹介した100 gecsのディラン・ブレイディーが本楽曲でもプロデュースを務めており、機械的に加工されたドリアンの甘く囁くようなボーカルと、対照的に金属的かつ歪んだトラックの絡みがとても気持ち良い。

 ミュージックビデオでは、「有害な男性性」の象徴とも言えるマッチョ・アピールする男性達=ホモソーシャル、そしてそれらに囲まれるドリアンの姿が描かれる。別のカットではドリアンは車に乗り自由を満喫し、シャワー室でナルシシズムに浸る。楽曲中でも男友達とレスリングをしたり喧嘩をする様子が描かれている。そういったホモソーシャルの身内を示すBroという単語に、ドリアンは、旧来の価値観では起こり得ない〈I Love You〉を足すことで、有害な男性性の中に恋愛感情を入れ、曖昧さを創り上げてしまうのである。Charli XCXといったポップスターからも注目を集めるドリアンだが、この新しいポップミュージックは、おそらくそう遠くないうちに、新たなスタンダードとなるのではないだろうか。

Dorian Electra - Sorry Bro (I Love You) (Official Video)
RealSound_ReleaseCuration@Noimura_20200628

■ノイ村 92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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