シーア、「Together」で描く“自己肯定と他者との繋がり” 闇を切り抜けたどり着いたカラフルな新境地

シーア、「Together」で描く“自己肯定と他者との繋がり” 闇を切り抜けたどり着いたカラフルな新境地

ポップカルチャーが抱える“闇”と、顔を隠すシーア

 現代のポップカルチャーにおいて、有名人は自身の創作物だけでは存在することができない。SNSなどを使ったファンとのコミュニケーションが常に求められ、たとえそこに理由があったとしても本人の言動や思考は群衆によって正しいかどうかをジャッジされ、自分の内面も外見も全てがフリー素材として消費されていく。顔を持たない人々から誹謗中傷を受けたとしても、それが“しょうがないもの”として受け入れられ、その結果として破滅がもたらされたとしても、次はその破滅自体が新たな消費の対象になる。

 この異常な世界において、プライベートはおろか自身の顔すらほとんどメディアに現れることのないシーアは非常に稀な存在と言えるだろう。2010年代前半のEDMカルチャーを象徴するアンセムとなったデヴィッド・ゲッタとの共作「Titanium」(2011年)やリアーナの大ヒット曲「Diamonds」(2012年)でソングライターとしての立ち位置を不動のものとし、さらにはソロアーティストとしても大成功を収めているにも関わらず、シーアは自身の顔を巨大なウィッグで隠し続けている。その存在は徹底して謎に包まれており、ファンはあくまで楽曲と声とビジュアルという、シーアが生み出す創作物のみに触れる。昨年のFUJI ROCK FESTIVALにヘッドライナーとして出演した際も、本人は微動だにせず立って歌うのみで、ステージ自体は自身の分身とも言える存在のマディー・ジーグラーによるダンスを中心としたパフォーマンスに委ねられていた。この表現形式は「Chandelier」のミュージックビデオ以降、現在に至るまで続いている。

David Guetta – Titanium ft. Sia (Official Video)
Rihanna – Diamonds

“闇”と戦い続ける果てに選んだ、表舞台からのリタイア

 このように姿を隠すようになった背景には、2000年代から2010年頃にかけてのシーアのキャリアが関係している。

 1990年代半ばに地元アデレードのバンド、Crispのボーカリストとしてキャリアをスタートしたシーアは初恋の相手との死別をきっかけにアルコールとドラッグ依存に陥る。その後、2000年代前半にはZero 7のボーカリスト及びソロアーティストとして活動するようになるが、傷が癒えることはなく、2003年の「Drink To Get Drunk」では、〈They say that change and pain is a positive thing/So have I changed since you died?(皆は変わること、傷付くことはポジティブなことだと言う/では、あなたが死んでしまってから、私は変わったのだろうか?)〉と自らに問いかけている。ソングライターとしても活動するようになり、成功へと近付いた2010年においても、『We Are Born』に収められた「I’m in Here」において〈I’m in here/Can anybody see me?/Can anybody help?(私はここにいる/誰か私が見える?/誰か私を救える?)〉と孤独の中で救いを求めており、キャリアを積み重ねる中でも常に闇と戦い続けてきたことが分かる。さらに同作の成功によって、シーアは前述したような有名人としての生活に疲弊することになり、遂には強い自殺願望を抱くようになっていた。

Drink to Get Drunk
Sia – I’m In Here (from We Are Born)

 やがてシーアは表舞台から退き、ソングライターとして裏方で活動することを決意する。その選択は正しく、2010年代前半、シーアは数多くの大ヒット曲を生み出すことになるが、契約の都合上、ソロアーティストとして一つのアルバムをリリースする必要があった。それが2014年のアルバム『1000 Forms of Fear』であり、同作に収められたのが、自身にとって最大のヒット曲となる「Chandelier」である。これからは裏方として活動する、もうこれ以上闇の中で苦しみたくないという想いから、シーアは本楽曲のプロモーションにおいて、ウィッグで顔を隠すことを選んだのだ。

 「Chandelier」はシーアの当時の心境をそのまま歌い上げた一曲とも言えるだろう。呼ばれた時だけ相手をする都合の良い存在であることに満足しているよう自分を言い聞かせ、アルコールを頼りにこの一瞬を乗り切ることだけを考える。自分はシャンデリアのように光り輝く存在にぶら下がり続けている。今夜さえ乗り切ることができれば……。祈りのような、悲鳴のような歌声が響く本楽曲は、シーアがこれまでに表現してきた自身が抱える闇の集大成とも言えるだろう。そして、だからこそ「Chandelier」は数多くの人々の胸を打つことになった。

Sia – Chandelier (Official Music Video)

 皮肉にも、ポップスターの裏方であることを歌い上げた自己破壊的でパーソナルな本楽曲が、自身をトップアーティストへと導くことになり、改めてシーアは表舞台へ立ち続けることになる。その状況への居心地の悪さもあったのだろうか、以降のシーアの作品群では楽曲面でも自己の存在を隠すようになり、「The Greatest」や「Cheap Thrills」などの大ヒット曲を収めたアルバム『This is Acting』(2016年)は、「これは演技である」という宣言とともに、全ての楽曲が“本来は他のポップスターに提供されるはずだった曲”で構成されている。その背景をわざわざ公表していることからも分かる通り、徹底して自己を内在させないように、自分自身に目線が向かうことが無いようにコントロールしているのだ。この試みにより、シーアはトップアーティストでありながら、あくまで創作物のみが語られるという稀有な立ち位置を築くことに成功する。

Sia – The Greatest
Sia – Cheap Thrills (Lyric Video) ft. Sean Paul

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