大滝詠一「君は天然色」が『かくしごと』の世界と調和する理由は? 高橋李依ら歌うイメージアルバムを聞いて

 同曲を聞いて、サビの〈想い出はモノクローム 色を点けてくれ〉など、カラフルなサウンドに反して、どこか物悲しい歌詞であることに気が付かないだろうか。この曲の作詞者である松本隆は制作当時、自身の妹が病床に伏しており、一度は大滝からの作詞依頼を断ったという。しかしながら、大滝は松本の歌詞を大切にし、「気長に待つ」と返答。結果、松本の妹はその数日後に旅立ってしまうのだが、その帰路で見た渋谷の街が“モノクロ”の世界に見えたことから、その際の感情や情景を後日、歌詞として仕上げたとのことだ。

 これは決して、姫たちが上記のような境遇に陥ると本稿を通して伝えたいのではない。そもそも、この楽曲はアニメに向けて書き下ろされておらず、あくまで松本が当時の心情を綴ったものだ。しかしながら、声優陣が表現するキャラクターの無垢な姿や歌声は、聞き手の心を朗らかにする一方、どこか胸を締め付けるのもまた事実ではないだろうか。

TVアニメ『かくしごと』イメージアルバム feat.君は天然色 試聴動画

 そんな感情豊かな声の持ち主=声優という技術者だからこそ、大滝の歌う原曲とはまた違った角度から、歌詞に秘められた“少女らしさ”を表現できたのだろう。あわせて、大滝がエコーを施しながら歌う原曲に劣ることなく、トラックの上で瑞々しい存在感を放っていたことにも、声優として培った経験が大いに活きているのだろうと付け加えておきたい。

 ほかにも、どこかまったりとしながらも澄んだ歌声の高橋、特徴的な高音が心地よい和氣あず未(橘地莉子役)、アルバム収録曲で唯一、王道アイドルポップ的なアプローチで、のびのびと健康的な印象を与えてくれた逢田梨香子(千田奈留役)など、キャスト全員の歌唱曲が統一されていたことで、それぞれのオリジナルな声質にも自然と意識が向けられたはずだ。そしてなにより、全員が原曲に通ずる“少女らしさ”を表現しているからこそ、今回の『かくしごと』イメージアルバムは、大滝へのリスペクトが大いに込められた作品として、「君は天然色」との確かな調和を生み出しているに違いない。

■一条皓太
出版社に勤務する週末フリーライター。ポテンシャルと経歴だけは東京でも数少ないシティボーイ。声優さんの楽曲とヒップホップが好きです。Twitter:@kota_ichijo

関連記事